ヒマラヤに登った男は、なぜ洗剤を作り続けるのか

発刊
2026年8月28日
ページ数
192ページ
読了目安
196分
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推薦者

環境にやさしい商品づくりの物語
「すすぎゼロ洗剤」の開発物語。ヒマラヤ登頂にも成功した登山家が、環境活動へと軸足を移し、環境にやさしい商品開発を行ってきたヒストリーが書かれた一冊。

洗剤の利用量を減らし、洗濯のすすぎ回数をゼロ回にすることで、水の使用量も減らすという環境負荷を減らす商品がどのような経緯でつくられたのかが紹介されています。環境保護と商品づくりを両立することの大切さがよくわかる内容になっています。

登山から環境活動へ

大学を卒業し、現JA全農兵庫に就職。20代後半は、人生で最も登山に熱中した。知人からの誘いで、兵庫県勤労者山岳連盟に入り、ほぼ毎週末、山に出かけていた。ある日、山岳連盟がヒマラヤ登頂の話を持ってきてくれた。連盟結成25周年を記念してヒマラヤ登山隊を組織しており、その一員として加わってくれないかという相談だった。

半年ほどトレーニングを続け、ヒマラヤ遠征が半年後に迫った段階で会社を辞めた。問題だったのは、ヒマラヤの入山料で必要経費を含めると1人600万円が必要だった。そこで個人的にスポンサーを探し、兵庫県のナチハマという会社が興味を持ってくれた。ナチハマは「洗剤を使わずに汚れを落とす」というのをコンセプトに、特殊なゴム素材をコーティングしたタオルやブラシなどを販売していた。

 

2年続けて、ヒマラヤ登頂に成功し、新たな海外遠征の話が続々と舞い込んだが、登山以上にやるべきことができて、あらゆる依頼を断った。ヒマラヤから地上に戻ってみると、以下に人間が水を汚し、自然界に負担をかけながら暮らしているか思い知らされた。次世代に美しい地球を引き継ぐため、登山から環境活動へと、人生の軸足を移していった。

 

生協で大ヒット

環境活動を開始するにあたって、まず自分にできることを考えた結果、当時四万十川流域にあった16市町村をめぐり、環境に対する思いや意見をつづった散文詩を、役所で読み上げていった。そして、最もリアクションのあった東津野村と月額3万円でコンサルティング契約を結んだ。

村全体を巻き込んだ運動として、農薬や化学肥料の使用と一斉に止める提案をし、無農薬、自然農法で育てた野菜を通信販売する仕組みをつくった。コンサルティングの中で、注目した要素の1つが村の中を流れる川だった。コンクリートを使わず、本来の自然環境に近い形で治水対策できる「近自然河川工法」を採用した。そして、河口で作られた塩を使って、味噌作りの取り組みを始めた。味噌を愛する人が増えれば、その味と価値を守るべく、自然と環境意識が高まっていく。東津野村の環境保護と地域おこしは、脚光が当たるようになり講演依頼が増えていった。

 

こうした活動と並行して続けていたのが、登山家のスポンサーとなってくれたナチハマとの仕事だった。環境活動と両立する形で、商品の普及の手伝いをした。ある日、ナチハマの高木社長から「お金を貸してあげるし、工場も使っていいから、自分で製品を作ってみてはどうか」という提案を受けた。

新しい製品の開発を続け、ボディタオルやフェイスタオル、生活クロスを作った。台所、風呂、トイレなど色々な用途で使えるものを考えて生まれたのが「がんこクロス」だった。これ1つあれば、暮らしの色々なところで洗剤を減らせる商品だった。

 

あいち生協で講演を行った際、商品を生協で売ってみないかと声をかけられた。商品案内に自らの環境への思いやメッセージを入れると、商品は飛ぶように売れ始め、生協でも前例がないほどの販売実績を作った。その後、他の卸問屋の目にも留まり、取り扱いが増えていった。

 

すすぎ1回の洗剤を開発

自分で開発した商品を広め、家庭から出る水を少しでもきれいにする試みを続けた。ある時、友人から自然塩を文化や暮らしの側面から広める「塩の道クラブ」という活動に誘われた。「塩の道クラブ」の活動の一環で、長野県の小谷村を訪れ、「美しい川があってこそ海があり、良い塩が生まれる」という考えを伝え、「川や海を汚さない暮らし方」を提案した。すると、「では、洗剤には何を使えばいいのか」という質問を受けた。

冷たい水でも使え、かつ石鹸以上に環境負荷が低い洗剤はないものか。既存の石鹸では、低い水温だとなかなか溶けずに性能を発揮できない。結局、既製品ではどうにもならず、独自に洗剤を開発することにした。

 

洗剤メーカーは、様々な特徴を持つ界面活性剤を組み合わせ、目的に合った性能を設計する。そこで、原料メーカーが開発した界面活性剤を商社から取り寄せ、様々な組み合わせを試しながら、自分の理想とする洗剤を作っていくことにした。

ある日、郵便受けに「海水でも洗浄力が落ちない」「海洋タンカーの原油流出事故処理に使用実績あり」という界面活性剤のDMが入っていた。電話をかけて、詳しい話を聞くと、その界面活性剤は「非イオン系」に属するものだった。これは、比較的刺激の少ない原料が多いことから、洗剤だけでなく化粧品など幅広い製品に使用されている。

毎日、実験を繰り返し、「すすぎ1回」の洗濯洗剤ができた。友人からフリーマーケットに出してみようと言われ、そこから洗剤はサンプルを試した露天仲間たちの口コミで広まっていった。潮目が変わったのは、生協での取り扱いがスタートしてからだった。生協の影響力は大きく、注文量は増えていった。