広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。

発刊
2014年7月30日
ページ数
252ページ
読了目安
274分
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旧来型の広告だけでは通用しない
従来型の広告ではこれから人を動かすことはできない。多くの人が動いた事例を紹介しながら、人が動くとはどういうことかを解説。これからのマーケティングのあり方が語られています。

旧来型の広告はなぜ効かなくなったのか

国内の消費者がメディア接触に振り向けている時間の総量は、5時間強〜6時間のレベルでほぼ一定である。その合計時間において、パソコン・携帯電話を含めたインターネット接続に振り向けられる時間のシェアは、2008年24%から、2012年33%とこの5年で着実に拡大している。

また、今や「テレビ視聴」のスタイルもかつてと同じではない。なぜなら、ほとんどの家庭にはHDDレコーダーに代表される録画機器が普及しており、テレビ番組を録画して、好きな時間帯に観るという行為は当たり前の日常になっている。

つまり、消費者の立場に立っていえば「自分が見たいものだけ、見たり読んだりして楽しむ自由」が拡大している。広告メッセージの受け手である生活者サイドに編集権や編成権が移り、「広告枠」という異物を強制的にコンテンツに混ぜて見てもらおうとしても、消費者に有効にリーチできず、コミュニケーションが成立しない傾向が強まっている。

 

人を動かす戦略

「できるだけたくさんの消費者に、たくさんのメディアを通じて、自社のメッセージをリーチさせればさせるほど、マーケティング・コミュニケーションは成功に近づくはずだ」というような、盲目的な「メディア横断×リーチ拡大志向」は誤りだ。

人を動かす戦略立案は5つのステップで行う。

STEP0:まず「目的」を必ず明確にする
いったい何人ぐらいを動かそうとしているのか。それは誰なのか。どんな人たちなのか。何人ぐらいの誰の「どんな行動」を期待しているのか。ここが明確になってから5つのステップを始めないと失敗する。

STEP1:「ターゲットインサイト」を洗いざらい出してみる
インサイトは「人間がとる、ある行動の理由になっている本音」。まず始めるべきは、このインサイトをどれだけたくさん出せるか、である。その具体的な方策としては「ターゲットにあたる複数人に直接インタビューする」という方法や、「ネット上やソーシャルメディア上にあるターゲットの生の声を収集する」方法などがある。

STEP2:「目的」と「インサイト」をお見合いさせる
明確にした目的を達成するために、もっとも使えそうなインサイトは何かという事を考える。その結果、人が動く「ココロの沸点」が発見できる。

STEP3:「ココロの沸点」を起こすために何を伝えるかを決定する
「ココロの沸点」を実現させるために、どんなメッセージやストーリーを伝えるべきかを考える。「期待する行動」を、最も起こせそうなポイントを先にフィックスさせておく事で、目的からブレないようにする。

STEP4:「ココロの沸点」体験となるコンテンツを用意する
メッセージやストーリーを具現化し、体験や体感につながるような「仕掛け」を用意する。

STEP5:「お金のかからない順に」伝える施策を決めていく
目的や動かす相手の規模感から考えて、お金のなるべくかからない方法から検討していく。広告は最後の検討手段である。

 

アンコントロールを受け入れよ

「マス広告」依存、「ポスト広告」時代に適応したマーケティング活動に取り組むにあたっては、事前にすべてを計画通りにコントロールできないし、すべきものではないと理解する事である。

もし、事前にコントロール可能な領域ばかりに留まり続けるならば、もはや有効性が低下したマス広告か、クリック単価が高止まりする検索エンジン出稿(SEM)くらいしかとり得る打ち手がない。

 

なぜ、人は「動く」のか?

従来のやり方で人を動かそうとするのは限界である。人を動かすルールは変わった。これまでのように広告やメディアだけで、たくさんの人を動かそうとするのはあきらめなさい。

では、新しい時代に人を動かすには何が大事になるのか。「人を動かす」にあたって、1000人から10億人までを追いかけていくと、人が動く構造は複雑化していく。

①1000人
・ピュアな理想に裏打ちされている
・少ない参画者で大きな事を成し遂げるというレバレッジが効いている
・達成すべきミッションがシンプルでわかりやすい

②1万人
・人間の根源的な欲求や本能に訴えかける
・コミュニティ形成を構造化する
・全体としての連帯感を醸し出す

③10万人
・「自分ではない誰か」がつくるストーリーがある
・共犯意識を高める事が行動を促す
・(人が動いた)具体的な数字を発表する

④100万人
・魅力的なラベリングを発明する
・「世間体」が出現する
・承認欲求を満たす

⑤1000万人
・メディアを介さない「目撃体験」が始まる
・シンボル性の高い「アイコン」が登場する
・世の中にすでにあるものを再定義する

⑥1億人
・人が動く「複数の要素」が必要となる
・新たな習慣を生み出す
・ライフスタイルや価値観の違いに対応する

 

人を動かす3要素

人数の規模にかかわらず、これらは最終的に「3つの要素」にまとめる事ができる。

①心=人の気持ち、感情、本音(インサイト)
②技=メディアやコンテンツの戦略と戦術
③体=体験、体感

この構造が「入れ子」のような構造になっている。ある規模の人が動く場合、その中にはより規模(人数)の小さい層の動きが内包されている。例えば、100万人を動かそうとする時に、まず1万人を動かす事から始める。一般的に「ヒット」や「ブーム」と言われるものも、表面的には一気に人が動いたようにも見えるが、案外その本質は「入れ子構造」そのものだったりする。

意図的に人を動かしたい時に「技」の要素は不可欠だが、技(メディアやコンテンツ)だけで人を動かそうという発想には無理があるのはこのためだ。重要なのは、この構造を理解し、常にイメージすること。その上で「技」のかけどころを探る事だ。