『「世界で戦える人材」の条件』の著者 渥美育子さんに聞く『日本がグローバル化するためには何が必要か?』(前編)

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−−−−なぜ日本はグローバル化の波に乗り遅れてしまったのでしょうか?

原因は2つあると思います。1つは日本人の多くが「グローバル化」を正しく理解してこなかったことです。日本人に多いのが「グローバル」と「インターナショナル」は同じだという誤解。

英語圏にいる人は「グローバル」と「インターナショナル」は異なるものだということが言葉からすぐにわかります。しかし、日本人は英語であるために、それを区別できませんでした。

現在でも、官庁、企業、学会、学校、どこへ行ってもグローバル化の定義はうやむやのままです。20年以上にわたって、正しくグローバル化を理解してこなかったことが大きな問題なのです。

2つ目は、日本が世界の大変動を見損なってしまったことです。グローバル化が進むきっかけとなった冷戦体制が崩壊した頃、日本ではバブル景気が崩壊し、国内問題に目が向いてしまいました。結果として、日本は世界の大変動を見逃すことになってしまったのです。

−−−−日本人の多くが、「グローバル化」を正しく理解できていない。本当のグローバル化とは、どういうことでしょうか?

インターナショナルとグローバル、この2つは発想が真逆なのです。インターナショナルとは、国と国の間の関わりという意味で「日本対外国」という視点で考えます。つまり日本ビジネスを海外に拡張するという発想です。

一方、グローバルは地球丸ごと、つまり「外から見る視点」です。世界の中の日本という俯瞰した視点で考えます。

たとえば、グローバル化というのは、インドネシアに行って、現地の人をどう使うかという海外の一部についての視点ではありません。世界の大局をつかんで、世界市場で日本や日本企業がどういう戦略を立てて成果を上げていくのかという発想なのです。

中国のことを少し調べて、中国語を勉強する、これはインターナショナルの発想です。この考え方では、グローバル人材は作れません。グローバルの定義が間違っていると、地球規模で新しいものを作り出したり変革したりするグローバル人材は育てられないのです。

−−−−グローバル化を理解していない日本企業はどういった問題を抱えているのでしょうか?

3つの点で大変不利益を被っています。最も大きな損失は、企業が世界市場でフェアな競争に則らない行為をしていることに気が付かず、最大の罰金支払い国になっていることです。

たとえば、日本企業の幹部・社員には、グローバル時代の特徴である「ルールの一元化」を重要なことだと意識していない人が多い。どの企業の人事部の人も、グローバルで一元化されたルールなどないと思っています。しかし、それ
が問題なのです。

米国には国内市場を対象とした「競争法」があります。これは市場でフェアな競争をしていくための法律で、これに違反した企業は天文学的な罰金を課されます。さらに、海外取引に関して、海外腐敗行為防止法というルールがあります。これは国際的なルールに則った法律。つまり、国内と海外の両方でちゃんと網を張っているのです。

日本企業がアフリカで、ある企業に賄賂を贈ると、米国司法当局に罰金を課されます。グローバル時代になってからは、企業は世界のどこでビジネスをしようとも、フェアな競争原理にのっとってビジネスをしなければなりません。

米国司法省の統計によると、米国における罰金のうち、約4割を日本企業が払っています。ざっと2000億円以上の罰金を日本の企業は海外で払わされている。捕まった企業の担当者の中には収監された人もいます。日本もEUも「競争法」のもとに捜査を協力し合って、不正行為を摘発しているため、グローバル化を理解していない日本企業は、米国やカナダ、日本、EU、そしてアフリカや南米でも罰金を払い続けることになります。カルテルだけではありません。これはコンプライアンスの問題というよりも、日本人にルールの軸が欠けている、ということです。

2つめには、グローバル化できていない企業は、営業利益率が極端に低いという問題があります。残念ながら、日本企業の多くは営業利益率が2.5〜3.0%と低いのが現状です。その上、莫大な罰金を払わされているのですから感覚が普通ではないと思います。今後は、株主から訴訟される可能性も考えられます。

かつて、日本が成功した80年代モデルは、必要な経営資源をすべて抱え込むことでした。多くの企業が、たくさんの子会社を作り、巨大な企業グループを形成しました。

ところが90年代半ば以降になってグローバル化が進むと、採算の合わない部門や子会社は捨てて、世界市場で勝てる競争力のある製品やサービスだけに選択と集中をしなければならなくなった。つまり、グローバル化とは80年代の成功モデルとは、真逆なビジネス戦略への切り替えだったわけです。

製造業では、工場を持たなくてもよい水平分業モデルも確立しました。グローバル化とはどういうことかを理解できない日本企業は、取り残されてしまったのです。

3つめは、グローバル化の原理・原則がわからないと、グローバル人材を効率よく育てられないことです。ある大手企業の話ですが、グローバル人事担当者が「グローバル研修には2種類あるが、どちらがいいか数ケ月議論しても結論がでない」というのです。グローバルの定義は決まっているし、すでに世界レベルではどうしたらいいか成功例がはっきりしているのに、何とも無駄なことをやっているのです。

3つの点の背後にある最大の問題は「日本人には人間関係の軸しかない」ということです。これはものすごく効率が悪い。ちょっとしたことで、相手の人格を否定してしまったりして、その人間関係が壊れてしまうと、またゼロからビジネスをやり直さなければならない。人間関係だけを見ていると、グローバル時代の原理・原則が大きく変化し続けていくという最も大切な点が見えないのです。

たとえば中東のイスラム圏では、ビジネスと友情を分けている。世界のルールの一元化は米国のようなリーガルコード(法的規範)社会のフェアネスの考えを強く反映している。そういう知恵を他の文化圏から学ぶことが日本は必要です。

人間関係を中心としたモラルコード(道徳規範)の割合を低くして、ルールとノウハウを中心としたリーガルコードをもっと重要視する。日本企業も世界レベルから見て価値のバランスある人材を育てていかないと、グローバル企業にはなれません。

■著者情報

渥美 育子 (あつみ いくこ)

社団法人グローバル教育研究所理事長、株式会社グローバル教育社長

青山学院大学助教授を経て、ハーバード大学研究員となる。1983年にボストン郊外で米国初の異文化マネジメント研修会社を設立。
「タイム」誌に紹介されるなど一躍話題となり、数多くのグローバル企業で人材育成や世界市場戦略策定を担当。
2007年に帰国後は、多くの日本の大企業においてグローバル人材教育を担当する一方、子どものグローバル教育の普及にも尽力している。

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