ハーバード戦略教室

発刊
2014年1月30日
ページ数
13ページ
読了目安
20分
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エリート経営者向けの戦略論カリキュラム
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■日用品の巨人
アメリカを代表する住宅・商業用健在の総合企業、マスコのCEO、リチャード・マノージアンになったつもりで考えてみよう。今、あなたは重大な決断をしようとしている。手元に巨額の資金があり、それを新規事業に投資するかどうか決めるのだ。このケースは今から20年以上も昔の事だ。しかし、その教訓は現代にも通用する。

1986年、マスコは年間売上高が11億5000万ドルに達し、29年連続の増収を記録していた。同社の主力商品は水栓蛇口、台所や浴室のキャビネットなどの家庭用品で、「日用品の巨人」と呼ばれた。マスコの経営陣は、他の家庭用品の業界に進出し「家庭用品のP&G」になろうとした。目をつけたのが、家具業界である。その業界は見るからに旧態依然としており、チャンスはいくらでもありそうだった。

マスコの効率的な生産体制、経営戦略、革新性には定評があった。その成功の原動力となったのは、革命的な水栓金具だ。従来の2ハンドル混合水栓と違って、マノージアンが開発したシングルレバーの水栓金具は温水と冷水を別々に調整する必要がない。マスコは横並びの状態に甘んじていた業界に乗り込み、破竹の勢いでのしあがったのだ。

マスコの失敗

当時、アメリカの家具業界の市場規模は140億ドルにのぼったが、業界全体の利益率は低かった。運送にコストがかかる上、価格競争も激しかったからだ。業者数は2500を超え、大半は小規模で、多くは家族経営だった。家具業界は、効率が悪い事や、品数の多さ、顧客をいらいらさせる納期の長さといった難問を抱えていた。

マスコは参入し、大胆に前進していった。最終的に15億ドルで10社を買収し、米国第2位の家具メーカーになった。さらに2億5000万ドルを投じて、それらの製造設備を改善し、新たなマーケティング戦略を展開した。

しかし、マスコは、それまで32年間連続で増収を記録してきたが、家具業界に参入した2年後の純利益は30%も減少した。さらに2年後、同社の家具部門は14億ドルを売上げたが、営業利益はわずか8000万ドルに過ぎなかった。その後も長年にわたって悪戦苦闘を続け、ついにマスコは家具部門を売却する事にした。

戦う場所の選択が重要である

なぜ、マスコは家具業界でしくじったのか。答えの1つは、業種の利益率にある。業種による利益率の違いは、業界の競争環境を形作る、複数の経済的な「力」(供給業者、顧客、代替品、新規参入者など)によって生じる。これを「産業効果」と呼ぶ。これらの力は、個々の企業や経営者がコントロールできるものではない。だが、多くの経営者はスーパーマネージャー神話を信奉している。

家具製造業界は、企業間の競争が激しく、多くの企業が似た家具を作っている。家具は長持ちするので、客の力が強い。参入障壁は低く、代替品も豊富である。つまり、多くの点で「非魅力的」な業種である。

マスコは、高・中間・低の3つの価格帯の家具会社を買収し、幅広い製品を作れば経費が削減できると考えたが、家具の最上級品と下級品では、製造過程から流通、小売、顧客に至るまで大きく異なるため「範囲の経済」は通用しなかった。同様に生産規模を拡大するほど利益率が高まるという「規模の経済」も、工場や流通ルートが無数にある家具業界では追求しにくかった。

目標が違いをもたらす

では、マノージアンが失敗した業界で、イケアの創業者カンプラードはなぜ成功する事ができたのか。それは、彼が「決定的な独自性」を創出したからだ。イケアの価格はとても安いが、その安さを実現できたのは、コストに対する姿勢が他社とは根本的に違っていたからだ。さらにイケアは、一流のデザイナーを雇い入れ、家具の外見と質感を良くして、実際より高価に見えるようにした。

イケアの推進力となったのは「より快適な毎日を、より多くの人に」という目標だった。明瞭で牽引力のある目標によって、市場のニーズを満たし、独自のニッチを築き、客にとって重要な存在になっていった。マスコにはそんな目標がなかったのだ。

 

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