リチウム戦争 「新たな石油」をめぐる国家・企業・人々の闘い

発刊
2026年7月10日
ページ数
424ページ
読了目安
676分
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環境問題のパラドックス
地球温暖化対策に不可欠なEVに欠かせないリチウムやレアアースなどの金属は、環境に影響を及ぼす鉱山開発なしには供給を増やすことができない。世界的に需要が激増すると予測されているリチウムや銅などの資源をめぐる競争や水面化の動きが描かれている一冊。

米国では鉱山開発の規制が厳しく、資源採掘が進まない中で、サプライチェーン問題を抱える国家や、鉱山開発事業者、環境団体、地権者など、相反するステークホルダーへの取材を通して、この問題の難しさを理解することができます。

環境問題のパラドックス

リチウム、銅、ニッケル、レアアース、コバルトなどの金属は、ソーラーパネル、EV、電池、風力タービンなど、世界経済を電化して炭素排出を緩和する鍵として称揚されている各種製品の製造に極めて重要となるものだ。しかし、これら金属の供給源は、全世界で聖地や特別な土地、生態学的に繊細な土地にある。

 

こうした土地を、気候変動を抑えようとして掘り起こすべきかというのは、現代世界を左右する問題となる。米国は、世界人口の5%を占めるだけだが、世界エネルギーの17%近くを消費している。その米国にとって、この新しいグリーンエネルギー経済は、全人類に関わる問題を突きつける。他の政府もこの転換と格闘しており、そこには世界人口18%を占め、エネルギーの25%を使う中国も含まれる。

 

グリーンエネルギー転換のボトルネック

国際エネルギー機関(IEA)によると、運輸は世界のCO2排出量の1/4を占め、温室効果ガスの効果を加速している。2020年の米国の総排出量の内、運輸部門からの排出量は約27%で、これは米国の排出の中で最大の割合である。

単純に言えば、ガソリンやディーゼル燃料を燃やす自家用車は地球を温暖化させている。この事実をパリ協定に調印した200カ国近くは公式に認めたようだ。もし世界がこの協定で定められた目標を達成するつもりなら、EV製造に使われるリチウムの世界需要は2040年までに40%増えると予測されている。他の金属も需要がはるかに増える。IEAの試算によれば、2022〜2030年にかけて世界でリチウム鉱山を50ヵ所、ニッケル鉱山を60ヵ所、コバルト鉱山を17ヵ所新設する必要がある。

 

米国の自動車メーカーにとっての問題は、EVなどのグリーンエネルギー装置が主流になる時に、米国がこうした金属のごく一部しか生産していないということだ。エネルギー安全保障はかつては原油と天然ガスをめぐるものだった。今やそれがリチウムや銅など、EV用金属をめぐるものとなっている。

バイデン大統領は、米国政府の車両群64万台ほどを全てEVに替えると約束した。この計画だけでも米国のリチウム生産量を2030年までに12倍増やさなければならない。これは鉱山を増やすということだ。そして、鉱山開発は、米国では極めて議論が分かれるトピックだ。多くの鉱山は歴史を通じて地下水を汚染し、風景を長年にわたり汚す有害廃棄物を生んできた。またその操業には天文学的な水が必要だ。

環境保護ロビーが短期的に反対している鉱山は、逆説めいているが、長期的には気候変動と闘うために不可欠な存在だ。リサイクルだけでは、世界のグリーンエネルギー転換を推進するのに必要な材料をまかなうことはできない。

 

資源争奪戦

中国は過去20年にわたり、世界中でコバルト、リチウム、銅などの金属を漁ってきた。アルゼンチンでは、中国は大規模なリチウム計画6つに投資している。インドもアルゼンチンの銅とリチウムを漁り、自国のEV産業の需要を満たそうとしている。これらの動きはいずれも、数千年にわたって続いてきた金属をめぐる世界的な争奪戦の最新の局面に過ぎない。各国は、グリーンエネルギーの素材をどこから、どうやって調達するのかという問いに向き合う必要がある。

 

米国は、OPECへの原油依存がグリーンエネルギー機器の素材をめぐる中国、コンゴなどへの依存へと移行していく様を目の当たりにしている。米国は世界リチウム埋蔵量の24%ほどを保有しているにもかかわらず、2030年までに生産できる量は、世界の年間リチウム需要の3%にとどまると見込まれている。輸入に頼ることは、自動車電化に向けた米国の取り組みを遅らせるだけでなく、海外、主にアジアの鉱山から処理施設への輸送が増えることで温室効果ガスの排出量を押し上げ、EVを普及させる根拠を部分的に相殺してしまいかねない。

 

グリーンエネルギー転換のための金属生産に代替手段を求める様々な試みにもかかわらず、採掘とは本質的に、騒々しく危険で、破壊的なものだという事実から逃れる術はなく、当面その状況が変わることはない。この現実は、私たちの共通の未来をめぐる世界的な闘いを今日もあおり続けている。

 

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