『やり過ぎる力』の著者 朝比奈一郎さんに聞く 『今、日本に必要なこととは何か?』(前編)

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−−−−経済産業省に在籍されていた時代、官僚という立場にありながら霞ヶ関の構造改革を目指す活動を始めたきっかけを教えて下さい。

学生時代、司馬遼太郎さんの本などを読んで、国や社会のために仕事ができるといいなと思っていました。大学には官僚になった先輩がいて、政治家よりも官僚の方が格好よく見えました。実際に「政策をつくる」ということこそが、世の中の役に立っているのではないか、そう思って役所に入りました。

役所に入った1997年当時は、厚生省の汚職事件や薬害エイズ問題などで、官僚批判が起こった直後の時期でした。その後も大蔵省のノーパンしゃぶしゃぶ接待の問題など、役所の不祥事が相次ぎました。そういう中でも、社会や国のために大事なことをやっていると感じることもありました。

しかし、その頃から、すでに日本は衰退し続けていました。朝から夜遅くまで働いたが、結果が出ていない。財政も景気も社会保障も良くならない。例えていうなら、成績の上がらない受験生みたいな。みんなずっと仕事をしているのだけど、結果が出ていない。

結果が出ておらず「勉強時間」はもう増やせないくらい働いているのだから、「勉強方法」を変えるしかない。霞が関で政策をつくるメカニズムを変えるしかない。そうして、『プロジェクトK』という霞が関の構造改革を目指す活動を始めたのです。結局、やっても結果が出ないという徒労感が大きかったのだと思います。

−−−−『プロジェクトK』は、効果があったのでしょうか?

一定の効果はあげたと思います。霞が関の仕組みを変えるために、1)縦割り行政を解消する「司令塔」の創設、2)公務員制度改革、3)日々の業務改革、という3つの案を具体的に提案しました。発表直後に、当時の第一次安倍政権で公務員制度改革に弾みがつき、当時の渡辺喜美行革担当大臣のご尽力もあって基本法ができて公務員人事は能力・実績主義でやろうという改革が進み始めました。民主党政権時代には、不幸な結果に終わったものの、国家戦略室という司令塔もできました。

−−−−現在、青山社中という組織を立ち上げられていますが、なぜ霞ヶ関から外に出られたのでしょうか? また現在、どのような活動をされているのか教えて下さい。

『プロジェクトK』が一定の効果をあげ、さらに霞が関を変えていくにはどうすればいいかを考えていく中で、そもそも霞が関だけ変えればいいのか、国と地方の問題や、社会保障制度、農業などいろんな政策に課題があるなと思いました。霞が関を良くする、日本を良くするには、今のままのやり方では限界だと思いました。最初は、政治家になることも考えましたが、既に多くの優秀な官僚政治家がいるがそれほど効果が出てないと思いなおし、やはり政策や人材を創る仕組みそのものがないのが問題ではないかと考えたのです。

そこで、僕らが疑似政党のようになって、「やり過ぎる」人たちをつくろう、政策づくりをやろうと活動しています。

−−−−著書『やり過ぎる力』の中で、「やり過ぎる力」とは、ルールや前例を乗り越えて、リーダーシップを発揮することだと書かれています。リーダーとは、一番高い木に登って、「自分が本当に正しい」と思うことをやり抜くことだと。
「自分が本当に正しい」と思ったことと世の中が求める正しいこととは必ずしも一致しないこともあると思います。どのようにして自分の正しいと思ったことを信じれば良いでしょうか

もちろん、自分の信念は相対的なものだというのは前提にあります。しかし、相対的だが、それでもなお「これなんだ」という想いを貫くことが大切です。それはまさしく勇気の問題。その勇気を持つには、歴史や世界を学ぶことで、大局観を持つことで、確信を持つしかないのではないかと思います。自分の信念を信じ切るには、そこに依拠するしかない。

−−−−リーダーシップを発揮するには、問題意識を持つことが大切だと書かれています。この問題意識はどこから生まれてくるのでしょうか?

「納得がいかない」「疑問に思う」というネガティブな感情をいかにポジティブな動きに転化させるかが大事なポイントです。何かおかしいなと思うところから、一歩踏み出す。

ゴミが散乱している、駅前に放置自転車があって通りにくい、職場で納得いかないことがある、なぜ満員電車で通勤しなくてはならないのか、日常の身近なことで、これはおかしいと思うことはたくさんある。

つまり、怒りの感情から問題意識が生まれるということだと思います。僕なんかも、霞が関でいい政策をつくりたいと思って役所に入ったのに、遅くまで働いて、本質的ではない仕事も多く、挙句の果てに結果も出ていない。これはおかしいよね、というのが『プロジェクトK』のきっかけになりました。

始めは小さなことでいい。そこから、考えていくうちに大きな問題意識へとたどりつくのだと思います。

■著者情報

朝比奈 一郎 (あさひな いちろう)

青山社中 筆頭代表(CEO)

中央大学(公共政策研究科)客員教授

東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。経済産業省でエネルギー政策、 インフラ輸出政策などを担当。アジア等の新興国へのインフラ・システム輸出では省内で中心的役割を果たす。 小泉内閣では内閣官房に出向。特殊法人・独立行政法人改革に携わる。

「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」初代代表。
主な著書に「やり過ぎる力」、「霞ヶ関構造改革・プロジェクトK」、「霞ヶ関維新」など。

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