「伝説のバンカー」と呼ばれた男 スタートアップを圧倒的に成長させる仕事術

発刊
2026年9月18日
ページ数
256ページ
読了目安
269分
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スタートアップ融資の基盤をつくった銀行員の物語
銀行の従来の審査基準では、相手にされないスタートアップへ融資する基盤を築いた著者が、銀行員時代の仕事を語った一冊。

現場主義を貫き、数多くのスタートアップを訪問し、融資に繋げてきたことで、「スタートアップ融資なら、みずほ銀行」との評価を作り、みずほ銀行の新たな収益をつくり出した、これまでの仕事が語られています。
銀行員だけでなく、一般の企業で働く人にも通じる、仕事への向き合い方、成果を上げるために必要なことが書かれています。

スタートアップ融資なら、みずほ銀行

渋谷中央支店は、みずほ銀行にとって大企業との取引も多い重要な拠点である。この渋谷中央支店に配属されたことが人生を大きく変えることになった。この支店は就任前から大きな問題を抱えていた。取引先との関係で、法人二部の融資残高と預金残高が大幅に減る予定になっており、最終的には半減することが確定した。収益の悪化が長期間続くと、その支店は校内での評価が下がる。

渋谷エリアでまだ取引のないお客さんへの営業訪問は、門前払いばかりだった。渋谷エリアで、未だに取引がないのは、よほどのみずほ嫌いか、過去にトラブルがあって出入り禁止になったお客さんばかりだった。

 

そんな時、みずほキャピタルに出向していた同期から「スタートアップが融資を欲しがっているぞ」という情報が寄せられた。スタートアップがVCからの出資だけでなく「金融機関からの融資で成長のための資金を調達したい」というニーズだ。他のVCを紹介してもらい、しらみつぶしに回っていき、関係ができ上がると、VCの方から融資のニーズのある企業や、有望な企業をどんどん紹介してもらえるようになった。

スタートアップの人たちの目の輝きに「日本を変えてくれるのではないか」という可能性を強く感じ、「残りの銀行員人生をこの人たちに懸けてみたい」と強烈に感じた。

 

銀行はバブル崩壊以降、健全経営が厳しく求められるようになり、人手も減っていく中で、より効率的に稼げる分野に経営資源を集中するようになっていた。こうした状況では、スタートアップは企業規模や扱う金額が小さいため、メガバンクや地方銀行も人員を割く余裕がなく、あまり関心も持たなくなる。スタートアップと出合った2013年とはそんな時期だった。

スタートアップを回り始めた法人二部がまずやったのは、みずほで法人口座を開設しやすくしたことだ。当時は、創業初期の信用のない企業がメガバンクで口座を開くことは難しかった。このハードルを引き下げた。スタートアップにとって顧客になりそうな大企業も紹介した。経営の相談にも乗り「事業がここまで伸びたら融資もできそうですよ」などとアドバイスした。

 

有望なスタートアップを発掘するために、VCからの情報提供以外のルートも開拓した。その1つが、六本木にある「アワバー」だ。ここは、スタートアップの経営者や、起業を志す若者たちの溜まり場で、頻繁に足を運んだが、その効果は大きかった。

2013年当時、これからアプリのサービスを本格的に立ち上げようという時期だったメルカリ創業者、山田進太郎さんと出会った。創業3年目の2015年初めに、メルカリは「みずほ銀行さんに10億円の融資をお願いしたい」と提案を持ちかけてきた。しかも条件は無担保・無保証でお願いしたいという。メルカリは、収益化に向けて国内サービスの有料化を始めた時期だったが、前年度決算の売上はゼロ。創業からの累積赤字は14億円まで積み上がっていた。

そもそもメガバンクが売上ゼロの会社に融資することはあり得ない。銀行の審査の常識とはかけ離れており、絶対に通るはずのない融資だった。審査担当者に頼み込み、一緒にオフィスに連れていき、メルカリ社員の働き方を実際に見たり、経営陣の話を聞いたりする内に、担当者たちの態度が変化していった。最終的にメルカリへの融資は満額で実行された。このメルカリへの融資は、「スタートアップ融資なら、みずほ銀行」という宣伝効果を生み、融資の相談に訪れるスタートアップが支店に詰めかけるようになった。

 

人の本質を見抜く

スタートアップの経営者と話す時、お金の話はしない。なぜ起業したのか、今の悩み事は何か、5〜10年後にどうなっていたいかなど、お金とは関係ない話をする。特にビジネスモデルや組織の状態については、不完全を承知で突っ込み、相手が返答する様子を観察する。できるだけ融資とは関係のない話をしながら、その人の本質をどう見抜くか心がけるようになった。

この人の本質を見抜く要素を、みずほ銀行の後輩は「気配値」と名付けた。気配値は4つの要素からなり、経営者の本質を見極める。

  1. 夢の語り方:夢をきちんとマネタイズする道筋を描けているか、ユーザーを具体的にイメージできているか
  2. 事業に対するコミット力:夢を実現する具体的な打ち手まで落とし込まれているか
  3. 人間としてのバランス力:人間として好かれる人か、忠告や助言に耳を傾ける姿勢を持っているか
  4. 強い経営チームとガバナンス:トップ以外の優秀なメンバーが揃っているか

 

この気配値に沿って人や企業を見る場合、正確な判断を下すための土台が必要となる。現場をとことん回って集めた、圧倒的な量の1次情報だ。VCやエンジェル投資家などのステークホルダーに、業界の新たなトレンドや有望企業の情報などと常に聞いて回り、スタートアップの解像度が上がっていった。

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