「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー

発刊
2012年9月28日
ページ数
203ページ
読了目安
252分
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野球は理屈で強くなる? 超進学校の野球戦略
東大合格者数1位の開成高校。その野球部は、7年前の高校野球予選の東東京大会でベスト16、今年はベスト32に勝ち進んだ。頭脳と理屈で、野球は勝てるのか?
開成高校野球部の取材をもとにしたノンフィクション物語。


■超進学校の野球部は強いのか?
開成高等学校は、毎年200人近くが東京大学に合格するという日本一の進学校である。受験シーズンになると毎年注目を浴びるのだが、スポーツの世界でその名を聞く事はほとんどない。ところが、平成17年の全国高等学校野球選手権大会の東東京予備選で、同校の硬式野球部がベスト16にまで勝ち進んだ。最後に敗れた国士舘高校が優勝したので、ややもすると夏の甲子園大会に出場できたのである。

さらには平成19年に「開成がさらに強くなっている」と聞いて、いよいよ頭脳プレイでも花開いたのかと思い、早速取材を申し込んで同校を訪れたのであった。

開成高校にはグラウンドが一つしかない。他の部活との兼ね合いで、硬式野球部が練習できるのは週1回。それも3時間ほどの練習で、彼らはベスト16入りを果たしたのだ。開成がベスト16入りした際の戦績を調べてみると、勝つにせよ負けるにせよほとんどの試合がコールドゲーム。9回まで戦う事がほとんどないのである。

開成高校野球部のセオリー

「一般的な野球のセオリーは、拮抗する高いレベルのチーム同士が対戦する際に通用するものなんです。同じ事をしていたらウチは絶対に勝てない。普通にやったら勝てる訳がないんです」

青木秀憲監督は静かに語った。彼は東京大学野球部出身。その一般的なセオリーというのはと尋ねると彼は即答する。

「例えば打順です。一般的には、1番に足の速い選手、2番はバントなど小技ができる選手、そして3番4番5番に強打者を並べます。要するに、1番に出塁させて確実に点を取るというセオリーですが、ウチには通用しません。そこで確実に1点取っても、その裏の攻撃で10点取られてしまうからです。送りバントのように局面における確実性を積み上げていくと、結果的に負けてしまうんです」

「つまり、このセオリーには『相手の攻撃を抑えられる守備力がある』という前提が隠されているんです。我々のチームにはそれがない。ですから『10点取られる』という前提で一気に15点取る打順を考えなければいけないんです」

「1番から強い打球を打てる可能性のある選手です。2番に最も打てる強打者を置いて、3番4番5番6番までそこそこ打てる選手を並べる。こうするとかなり圧迫感がありますから」

「打順を輪として考えるんです。毎回1番から始まる訳ではありませんからね。ウチの場合、先頭打者が8番9番の時がチャンスになる。一般的なセオリーでは、8番9番は打てない『下位打者』と呼ばれています。8番9番がまずヒットやフォアボールで出塁する。すると相手のピッチャーは、『下位打者を抑えられなかった』とうろたえる訳です。そこへ1番打者。間髪を入れずにドーンと長打。強豪校といっても高校生ですから、我々のようなチームに打たれれば浮き足立ちますよ。そして、ショックを受けているところに最強の2番が登場して点を取る。さらにダメ押しで3番4番5番6番と強打者が続いて勢いをつける。勢いにまかせて大量点を取るイニングをつくる」

「我々のようなチームの場合、ギャンブルを仕掛けなければ勝つ確率は0%なんです」彼らは大量の「リターン」(点)によって、コールドゲームに持ち込み、「リスク」を生み出す回をなくそうとしている。

守備の方は、これで大丈夫なのでしょうか?と指摘した。

「守備というのは案外、差が出ないんですよ。1試合で各ポジションの選手が処理する打球は大体3〜8個。その内猛烈な守備練習の成果が生かされるような難しい打球は1つあるかないかです。我々はそのために少ない練習時間を割く訳にはいかないんです」

監督のセオリーの前提は「10点取られる」という事。10点取られるつもりで守備に当たるので、多少のエラーでは動揺したりしないのである。

 

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