幼児教育の経済学

発刊
2015年6月19日
ページ数
128ページ
読了目安
129分
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幼少教育こそが最も大切である
やる気、忍耐力、協調性といった非認知的スキルが、子供の将来の成功を左右する。こうしたスキルを子供が身につけるのは6歳までであり、幼少教育の大切さを説きながら、国の社会政策のあり方を提言している本。

成育環境による格差問題

今日のアメリカでは、どんな環境に生まれあわせるかが不平等の主要な原因の1つになっている。アメリカ社会は専門的な技術を持つ人と持たない人とに両極化されており、両者の相違は乳幼児期の体験に根ざしている。恵まれない子供は、技術を持たない人間に成長して、生涯賃金が低く、病気や十代の妊娠や犯罪など個人的・社会的な様々な問題に直面するリスクが非常に高い。

生まれあわせた環境が人生にもたらす強力な影響は、恵まれない家庭に生まれた者にとって悪である。そして、社会全体にとっても悪である。数多くの市民から社会に貢献する可能性を奪っている。

 

スキルの格差は幼少期から生じる

アメリカの最近の公教育は、認知力テストの結果、つまり「どれほど賢いか」を重要視している。だが、最近の文献の一致した意見は、人生における成功は賢さ以上の要素に左右されるとしている。意欲や長期的計画を実行する能力、他人との協議に必要な社会的・感情的制御といった、非認知能力もまた、賃金や就労、労働経験年数、大学進学、十代の妊娠、危険な活動への従事、健康管理、犯罪率などに大きく影響する。

人生の好機を得るために重要な役割を果たす認知・非認知能力の格差は、どの社会経済的集団でも非常に早くから開く。研究では、子供が18歳の時点での認知的到達度(大学へ進学するかどうかの強力な予測因子)を母親の学歴別にまとめたところ、子供が小学校へ入学する6歳の時点で既に格差が明白であった。

社会性と情動のスキルでも、同じようなパターンが見られる。ここでも、格差は早期に開き、長年にわたって継続する。また、学校教育はこのパターンに大きく影響しない。

 

子供が育つ環境こそが能力を分ける

こうした早期的かつ継続的な能力の違いは、どうして生じるのか。そうした理由は主に遺伝子にあると考える人々もいる。だが、最近では多くの文献が、遺伝子と環境との相互作用が人間や動物の発達を説明する中心部分だろうと主張している。一卵性双生児を対象にした研究で、生活習慣や環境が遺伝子の発現に影響をもたらす事が示されている。生活習慣や環境は人々の皮膚の下に入り込み、長期的な影響をもたらす。つまり、遺伝子がすべてを決めるという考え方は弱体化し、子供が育つ社会的環境、特に家庭に目を向ける事が必要とされている。

 

幼少期の教育に介入することで子供の成長を改善できる

恵まれた家庭に生まれた子供は、経済的にも認知能力的にも有利な環境を得られる可能性が高く、恵まれない家庭に生まれた子供は得られる可能性が低い。多くの社会科学者が家庭状況を測るのに使用してきた物差しは、両親が揃っているか否かと世帯所得だ。だが、これは子供がどのように育つかを決定するための大雑把な目安にしかならない。子供の不利益を決定する主要な原因は、単なる経済状況や両親の有無よりも成育環境の質である事が示されている。

研究では家庭環境の強化が子供の成長ぶりを改善する事を示し、改善の経路として非認知的スキルの役割を強調する。幼少期の教育を上手に実行する事は、大きな利益をもたらす可能性がある。スキルがスキルを生む相乗効果のせいで、幼少期の効果的な介入から得られたものは、その後も高品質の学習体験を続けた場合に最も効果が高くなるのだ。