伊勢丹・ストーリー戦略

発刊
2012年5月12日
ページ数
234ページ
読了目安
252分
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百貨店が生き残るためのヒント
モノが売れない時代において、百貨店業界の中で世界一店頭売上が高い伊勢丹新宿店の事例を紹介しています。

なぜ伊勢丹が好調なのか。
関係者からのインタビューをもとに、その秘密に迫る。


■価値観は「質の良いもの」へ
ものが売れない理由として、リーマンショック後の不況から消費が冷え込み、東日本大震災で悪化したと言われるが、それだけではない。

「自分にとって本当に必要なものは何かを考え直し、手に入れたものを丁寧に使っていく、ものの価値を尊び慈しんで使っていく」、人々の意識はそちらに向かっている。時代の流れは「それなりの質のものを短期で使い捨てる消費スタイル」から「質の良いものを使い込む消費スタイル」へと向かっている。

そもそも日本という市場の中で、どの業態にも先駆けて「質の良いもの」を提案してきたのが百貨店である。しかし、効果・効率を優先する中で、必ずしも「質の良いもの」が提案される場ではなくなってしまった。結果的に「らしさ」が失われ、かつてのような牽引力が薄れている。

そのような中で、伊勢丹新宿店は、新しいブランドや売り場を次々と生み出し、ユニークなイベントを開催して話題を呼び、いつ訪れても多くの人で賑わっている。これは、「質の良いもの」が提案されているからに他ならない。

百貨店の低迷

時代の潮目を読み、半歩先駆ける形で世に送り出すという「時代を読み切る力」は、強いブランドを作るにあたり欠かせない。時代の半歩先を行く新しさの提案は、もともと百貨店が果たしてきた役割の一つである。

しかし、バブルがはじけて以降、それが様変わりした。景気が悪くなって、贅を凝らすよりは、効果・効率が優先されるようになった。多くの百貨店では、商品分野が狭くなり、ライフスタイルの提案そのものを行うことが難しくなった。

90年代に入った頃から、服だけでなく暮らしを取り巻く様々なものへと、人々の関心は向かっていったのに、百貨店はそこを狙わなかった。効率の良い婦人服を中心にと、商品分野を狭めていったことが、使い手から見ると、時代に合っているように映らなかった。

そこにセレクトショップ等のライフスタイル提案型のショップや、駅周辺業態や郊外型の大規模ショッピングセンターなどが増え、百貨店の客は奪われてしまった。

変化に強い伊勢丹

東日本大震災を経て、「本当に必要なものは何か」を考えて消費を行う層は確実に増えている。つまり、これからの時代に向けた「上質さ」こそ求められている。その「上質さ」を提案できるのが百貨店であろう。次世代に向けての「上質さ」を探っている百貨店の一つが伊勢丹である。

伊勢丹は、時代の大きな潮目を読み、それに向けて売り場を作っていくのに優れている。伊勢丹のルーツは、神田の呉服屋であるが、当時世の中には、三越、高島屋、白木屋(現東急百貨店)といった老舗の呉服屋が存在しており、後発組であった。そのため先発組に負けない独自性を出すべく、様々な施策を打った。
関東大震災後、新宿に移転する際も、後発であるがため、駅から徒歩10分という立地になった。新しい仕掛けをしなければ、人が来ないため、独自性の追求と魅力的な話題作りを行った。これが、結果的に伊勢丹の強みを作ってきた。

百貨店が生き残るにはどうすればいいか

伊勢丹は「どこよりも早いこと」「オリジナルであること」について徹底的にこだわる。この動機づけがバイヤーの「時代を読み切る力」につながっている。

百貨店の常識では、売り場ごとに組織が構成されているため、担当の領域を越えて、他の売り場と協業することが珍しい。しかし、伊勢丹では売り場の枠を越えた様々な企画が行われている。

ネットも含めた新しいチャネルが次々と生まれ、枠組みにこだわらない売り場が登場している中、百貨店が「らしさ」を追求し、どのように生き残るかが問われている。その解の一つが「買い回り」にある。暮らしを取り巻くものを、独自の視点で編集して見せるところにこそ、百貨店らしさがある。

 

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