確率を直観的に理解するのは難しい
人生は偶然に支配されている。人生は秩序のあるものではなく、現実には偶然が大きな役割を果たす。そして、人生は偶然に支配されているが、それと同じくらいに、人間は決まったパターンから抜け出せない。
ファイナンスの本質とは、人生におけるリスクと偶然性の役割を知り、支配的なパターンを自分の得になるように利用することに他ならない。
確率に関して、直観に悩まされるのは仕方ないことだ。人類の歴史のほとんどの間、確率をめぐる直観はいつもあてにならなかった。偶然はどんなに頑張っても減らせないし、どこにでも存在する。だが、偶然を理解し、厳格に分析することは可能だということに人間が気づくのに、1000年もかかっている。
ファイナンスとはつまるところ、先の見えない危険な世界にどう対処したらいいかを理解するための、一連のツールである。
偶然は「神の力」から分析対象へ
ギャンブルは太古の昔からある。しかも、ギャンブルほど偶然と規則性に左右されるものはない。ギャンブルは数千年前も続いてきたのに、なぜもっと早く確率の概念を唱える人がいなかったのか。古代と中世を通して、偶然は人知を超えるもので、結果を操るのは神の力だと信じられていた。
その考え方が変わったのは、ルネサンスの訪れで世界的に貿易が広まった時だった。貿易をきっかけに、合理主義とリスクテイクへの欲求が高まった。リスクをきちんと理解できれば貿易で儲けることができるし、人間は世界を理解できるという自信がここで生まれた。それが問題解決への原動力になった。それまで神の力で左右されると考えられていた偶然の成り行きが、分析の対象になった。
リスクを管理するのがファイナンスの本質
確率的思考に決定的なブレークスルーが訪れたのは、二人の先駆的数学者の間で交わされた書簡がきっかけだった。確率的思考が定着し始め、様々な現象が釣り鐘型の正規分布に従っていることもわかってきた。
偶然はどこにでも存在するが、その総和は予測可能だという世界観こそ、保険と近代ファイナンスの土台になっている。不確実性に満ちたこの世界を生き抜くために必要なツールを提供するのが、ファイナンスの使命である。リスクは至るところにあり、それを否定することはできない。このリスクを管理すべきだと考えるのが、ファイナンスなのだ。そして、人生の中でリスクを管理する大切な手段になるのが保険である。異常の中に正常を見出すことこそ保険の基本であり、それが混沌とした世界で秩序を実現する助けになる。
2つのリスク管理手法
保険は死や長寿や自然災害のリスクを管理するための効果的なツールだ。しかし、労働市場や結婚市場などのリスクへの保険はお金では買えない。
幸い、金融には「オプション」と「分散化」という2つの有効なリスク管理の手法がある。いずれも保険の論理から生まれた手法である。この2つは、株価の動きを「ランダムウォーク」として数学的に説明できたことで生まれた。市場に勝つのはほとんど不可能で、分散化されたポートフォリオを持つのが一番だという考え方が生まれた。
オプションとは、比較的少額の手付金を支払って取引を行う権利を手に入れるが、必ず取引を行わなければならないような義務を負うわけではない。つまり、必要になるかもしれないけれど、まだそうなるかどうかわからないリソースを手に入れるだけである。
オプションの最も際立った特徴は、環境のリスクが高まった時に、その非対称的な性質が役立つ点だ。失うものはほとんどなく、得るものは大きいため、極端な結果を追い求めるのにちょうどいい。つまり、オプションを持っていれば、よりリスクの高い行動が可能になる。