個を動かす 新浪剛史、ローソン作り直しの10年

発刊
2012年12月13日
ページ数
295ページ
読了目安
339分
推薦ポイント 8P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

ローソンの経営改革の軌跡
「セブンイレブンのマネをしろ」と言われ続けた「万年2位」のコンビニ、ローソン。諦念と停滞の中で就任した新浪社長が行った経営改革の10年間を描いた本。
ローソンの経営戦略がよくわかります。


■社長就任
2002年5月、新浪はローソン社長に就任した。社長として臨む初めての朝礼で、社員たちを前に語りかけた。「ぜひ、どのチェーンにも負けないような、うまいおにぎりを作りたい」

白けた空気が場を包む。古参社員たちの中には、筆頭株主・三菱商事から送り込まれてきた新社長の発言に失笑する者もいた。小売りについて何も知らないハーバード大学MBAホルダーのエリートが気まぐれを言っているに違いない、と。社内を覆っていたのは、社員たちの、経営に対する不信感だった。

ローソン社員は、親会社からの無理な指示に疲弊していた。1997年、苦境に陥ったダイエー救済のために中内功はローソン上場を決定。99年に新浪に「三菱商事出資」を打診。ローソンは上場前に成長性を演出するために過剰に出店した「副作用」に苦しみ、業績が悪化し始めていた。そして、ダイエー出身の役員たちが去り、新浪が現れた。ローソン社員から見れば「ダイエー」が「三菱商事」に代わったに過ぎなかった。

逆境からのスタート

ダイエー時代の「負の遺産」は、社内にはびこる諦念や経営に対する不信だけではなかった。経営不振に陥ったダイエーは、余剰になった人員をローソンに送り込んだ。その一部は加盟店オーナーになっていたが、彼らはローソンSVの頭越しに本社のダイエー出身者と交渉するなど越権行為を繰り返し、組織のモラールを著しく低下させた。さらにコンビニ経営の生命線であるITと物流網も、ダイエー子会社が開発と運営を担っており、非効率で運用コストも不透明で高かった。

社長就任してしばらく、ローソン社内は、新浪にとっては「逆境」という言葉では表せないような惨状だった。

一番うまいおにぎりを作ろう

新浪は、おにぎりの新商品開発を行う直轄プロジェクトのメンバーから商品開発のプロ「商品部」を徹底的に排除した。集めたメンバーは商品開発の経験がない「素人」ばかり。だが、彼らはダイエー出身の商品担当者たちが失っていた情熱を持っていた。

おにぎりは、コンビニが日本に定着させた「中食」の象徴だ。最も良い場所に配置され、よく売れる。それでいて、シンプルな商品なので、差別化が図りにくい。商品の本流であるおにぎりで挑んでも、業界の王者・セブン・イレブンに勝てるはずないじゃないか。既存の商品部員たちは冷ややかな目を向けた。だが、素人のプロジェクトメンバーには先入観がない。

「とにかく値段は気にせず最高のものを作ってこい!」新浪は叱り飛ばす。素人たちの発想は自由奔放だ。サケの切り身、豚の角煮、新潟産コシヒカリ。具材、コメ、塩、海苔、調理法、いずれもこだわって試作と試食を重ねた。

「で、これ、いくらで売れるんだ」新浪は尋ねる。「300円です」「よし、じゃあこれを売れる金額まで何とか落とし込もう」結局、工夫を重ね168円まで売価を下げる事ができたが、それでも強気の値付けだった。

新浪はこの時、右手でおにぎりを作りながら、左手でリストラの手を打っている。商品部を中心に、早期退職で部長クラスを2割削減。直営店700店の内211店を閉鎖。意欲がないと判断した加盟店400店も閉じた。にもかかわらず、おにぎりの販売促進に10億円の大金をつぎ込む。結果は予想を超えた大成功だった。コンビニ業界の常識を覆すような高級おにぎりは、売れに売れた。

それは新浪にとっては必要な賭けだった。リストラによって出血を止めつつ、一方で、社員や加盟店、顧客などにそのリストラが「縮小均衡に向かうもの」という印象を与えないような手を打つ必要があった。「おにぎり」の成功で、新浪改革が始まっていく。

 

あわせて読みたい