当事者の主体性こそが鍵
組織開発とは、経営トップから現場社員にいたる人々が対話を重ねていき、自分たちの見方や前提を見直したり探求したりすることで、一人一人の行動や考え方が変わることだ。対話によって、部下や同僚や上司との関係性が変わり、交わす言葉が変わる。
事務局(主に経営企画部や人事部の有志)が組織開発に関心を持つきっかけは、従業員の意識調査であることが多い。従業員の意識調査の数値や、退職者や休職者の推移といった事実を明らかにすることで、組織の活性度や健全性への注目が高まり、経営会議でも話題にのぼるようになる。
だが、意識調査の数値が悪化し、退職や休職をする人の数が増え、その結果が経営陣に報告されているだけでは、組織開発は始まらない。事務局の危機意識が経営陣に伝わり、組織課題について経営陣が「私たちの責任だ」と捉えるようになって初めて、全社を巻き込んだ組織開発のプロセスをスタートさせることができる。
組織開発の3原則
組織の活性度や健全性の向上に本気で取り組むなら、会社の理念や経営トップのビジョンを軸に、現在の仕事そのものを見直す必要がある。具体的には、問題を解く方法を探すのではなく、問題を解く人そのものが変わらなければならない。「何が課題なのか」という認識を変えることで、問題の設定そのものを変えるのである。さらに、仕事を与える人と受ける人、両方の認識を同時に変える必要がある。組織開発の原則は次の3つ。
①経営トップから始める
組織開発において、まず会いに行ってコミットメントを得る必要があるのは、経営トップ以外にありえない。事務局はトップをスポンサーに据え、トップの後ろ盾を得る必要がある。なぜなら、組織開発を全社に展開できるかどうかは「この話は誰が言ったのか?」にかかっているからである。
②各層のコンセンサス
経営トップとの対話の後に、役員との対話(役員合宿)を行う。役員合宿には経営トップも参加して、役員に自分の想いを伝える。それに対して、役員・本部長も本音で応えておき、これからどうしていきたいか対話していく。役員のコンセンサスが得られたら、次は部長と対話し、コミットメントを引き出す必要がある。
③当事者主体
最も当事者意識を持ち続けなければいけないのは、事務局のメンバーである。事務局が当事者意識を失えば、組織開発は頓挫する。組織で起こっている問題の一部は自分であることを認識してもらう「自分ごと化」には、まず事務局自身が、本物の当事者であることを体現しなければならない。
経営トップはどうすれば本気になるか
社長のコミットメントを得るには、対話のプロセスを意識することが重要だ。それには次のステップがある。
①現状の認識をすりあわせる
好業績の陰で、組織のどこで、どんな問題が起きているか?
②リスクシナリオを提示する
このままだと、何が起こりそうか
③組織課題の本質を見極める
「経営への信頼」が揺らいでいないか?
④組織開発のプロジェクトを提案する
どんな打ち手が必要なのか?
⑤トップの想いを引き出す
従業員にどんなメッセージを伝えたいか?
組織開発に対する社長の本気が芽生えるために、事務局メンバーには「このままでは、自分たちの会社の未来が危うい」という危機意識が求められる。健全な危機意識こそが、事務局の本気度を高め、それが社長に伝わる。