冒険する組織のつくりかた

発刊
2025年1月24日
ページ数
448ページ
読了目安
609分
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これからの時代の組織のあり方
メンバーを会社のミッションを達成するための道具として捉える従来型組織の価値観では、これからの時代は人が定着しない。昭和的な組織の価値観を転換し、メンバー個々人の自己実現と会社のミッションを両立させるための組織づくりの考え方と手法が紹介されています。

特に若い世代を中心に働くことの価値観が変化している中で、会社組織はどのように変化に対応しなければならないのか、組織開発に携わる人や経営者にとって、示唆に富んだ内容が書かれています。

個人と会社の世界観のズレ

「会社にいる自分に違和感がある」という人が増えている。この働く個人と会社との間にある決定的なすれ違いの原因は「世界観のズレ」にある。働く個人が持っている価値観や考え方と、組織に蔓延している価値観との間にミスマッチが広がっている。

 

今日に至るまで、組織で働く多くの人達は、まるで軍隊にいるかのような景色の中で、戦争をするかのように仕事をしてきた。このような暗黙の見方を「軍事的世界観」と呼ぶ。会社で働く人達は自分たちを「上からの命令を忠実に実行する兵隊」だと信じて疑わず、組織のミッションのために自分を押し殺す「会社中心のキャリア観」が一般的だった。

しかし今、特に若い世代にとっては、「幸せな人生を送るためにどんなキャリアを歩むべきか」という「人生中心のキャリア観」への大転換が起こりつつある。そのため、いつまでも軍事的な世界観を引きずっている組織からは、今後、人がどんどん逃げ出していく。

 

ここで組織にできることは「世界観のパラダイムシフト」である。軍事的世界観にあるのは、働く人やお客さんなどの人間を「目標達成のための道具」と見なす考え方である。しかし、これからの組織では、不確実な世界の中で各人が自分なりの目的を探索しながら、時には仲間達と協力して新たな価値を生み出していく、冒険者達が持っているような世界観「冒険的世界観」が求められる。冒険する組織においては、1人1人が組織づくりの主人公であり、その核心は「全員が自己実現を諦めない」ということにある。

 

会社の世界観を変える

表面的な施策や研修を導入するだけでは、組織の根底にある世界観を変えることはできない。有効なのは、組織の考え方が特に色濃く反映される部分を取り出して、そこからものの見方「組織のレンズ」を変えていくことである。凝り固まった軍事的世界観をほぐすには、次の5つのレンズを冒険的世界観に沿って解釈し直す必要がある。

 

①目標のレンズ:行動を縛り上げる指令→好奇心をかき立てる問い

冒険する組織では、軍事的組織のように「行動を制御するノルマ」として目標が課される訳ではない。目標は唯一の「答え」としてではなく、メンバーの好奇心を刺激し、多様な試行錯誤を触発する「問い」として設計されている。

 

②チームのレンズ:機能別に編成した小隊→個性を活かし合う仲間

冒険的世界観におけるチームとは、1人1人のメンバーを単なる道具ではなく、個性ある人間として認め、「仲間」として互いにつながり合う共同体である。「同じ船に乗る意味」を一緒に考えてみることである。

 

③会議のレンズ:伝令と意思決定の場→対話と価値創造の場

個性を活かし合う仲間に好奇心をかき立てる問いを投げかける組織にするためには、「対話と価値創造の場」が必要である。相手が持っている価値観や本音を尊重し、その背景を知ろうとする対話的コミュニケーションを通じた価値創造を重視する。

 

④成長のレンズ:望ましいスキル・行動の習得→新たなアイデンティティの探究

冒険的世界観の組織では、表面的に観察可能な「スキル・行動」にとどまらず、もっと豊かで、目に見えにくい、人間としての成長に目を向ける。自分の内的動機に基づいて、より「しっくりくる自分」像を発見していくプロセス「新たなアイデンティティの探究」こそが成長だと考える。「何に好奇心を向けていて、どんな価値を生み出している人なのか」をアイデンティティの中心として捉える。

 

⑤組織のレンズ:事業戦略のための手段→人と事業の可能性を広げる土壌

軍事的世界観の下での組織とは「戦略を達成するための手段」に過ぎなかったのに対し、冒険的世界観においては「人や事業の可能性を広げる土壌」として組織を捉えていく。

 

組織としてのミッションとメンバー個々人の自己実現を整合させる

冒険する組織が目指しているのは、組織としての「社会的ミッションの探究」と、個々のメンバーの「自己実現の探究」の両立である。通常、この2つの両立が難しいため、個人の自己実現に対するケアは、多くの組織において最初から放棄されてしまう。その諦めが、やがて従業員を道具化してしまう。

 

冒険する組織では「社会的ミッションの探究」と「個々の自己実現の探究」という2つの両極を「事業ケイパビリティの探究」と「組織アイデンティティの探究」という2つの要素を間に挟むことで、間接的につなげる。

日々の業務がコア事業と重なり合っているメンバーは、「事業ケイパビリティ」を介することで、個々の自己実現と組織の社会的ミッションに整合をもたらすことができる。この整合から「やりがい」が生まれる。一方、日々の業務がコア事業に直結しないメンバーは、個人レベルでの探究と「組織アイデンティティの探究」とのつながりを示すことで、個人レベルの自己実現と組織の社会的ミッションを間接的に結びつける。