人生は常に変動するもの
「人生を揺るがす出来事」はより頻繁に起きている。転職、離職、結婚、離婚、子供の誕生、死別、病気、引越し、卒業、出会い、昇進、子供の独立、定年退職など。大人は平均で36回も「人生を揺るがす出来事」を経験するという。18ヶ月に1回の割合だ。
変化と混乱は例外的な出来事だと思われがちだが、実際はどちらも通常の出来事だ。よく見れば、あらゆるものが変化していて、自分も例外ではないことに気づく。人生は流動的なものだ。私たちが思うほど、人生は安定しているわけではない。にも関わらず、私たちの文化では安定性を求める風潮が強い。
変化は痛みを伴うこともあるが、様々な利益ももたらしてくれる。適切なスキルさえあれば、変化は成長を劇的に後押しする力になり得る。変化を今までとは全く異なる視点で捉えて対応する方法を「ぶれない柔軟性」と名づける。これを習得すれば、苦痛、苛立ち、不安を最小限に抑えられるし、多幸感や持続的な充実感を味わいやすくなるだろう。そして、変化にうまく対応する内に、優しくて賢い人間になっていく。
ぶれない柔軟性を身につけることは、混乱が起きた後に物事が元の状態に戻ることはないと認識することだ。もはやかつての秩序はなく、あるのは再構築された秩序だ。ぶれない柔軟性の目標は、有望な新しい秩序に辿り着くことだ。核となるアイデンティティを失わないように維持しながら、順応し、進化し、成長することだ。
人生の流れに心を開いて変化を受け入れる
多くの人にとって、変化はしばしば精神的動揺、困惑、苦痛をもたらし、結果的に健康や人間関係、才能の開花に悪影響を及ぼすことがある。しかし、変化それ自体が害をもたらすことはない。問題が起きるのは、変化に気づくのに遅れた場合や、変化を受け入れまいと抵抗し拒否した場合が多い。そうした態度が最初の障害となる。
変化に生産的に対処するには、変化をありのままに捉える必要がある。そのためには条件反射的に反応するのではなく、たとえ変化を歓迎できなくても、回避できないものとして受け入れるマインドセットを身につけることだ。
ぶれない柔軟性の一番中核的な要素は、人生の流れに心を開いて変化を受け入れることだ。つまり、変則的なカードをそれぞれの経験の中に吸収することであり、時に上下が逆さまに見える世界であっても、そういうものだと慣れることでもある。
ある瞬間に人がどれだけ幸福だと感じるかは、期待から現実を差し引いた結果で決まる。現実が期待と一致する、または期待以上だと気分が良くなる。ぶれない柔軟性を身につける上で最も重要なことは、適切な期待を定めることだ。
人生は困難なものだと予測する
幸せになるための最悪の方法は、いつも幸せでいようとすること、もっと悪いのは、幸せにならなければと思い込むことだ。生きていく上では悲しみ、退屈、無気力といった感情を避けられない。幸せを崇拝して幸せを人生の目標の代わりに、悲痛な状況下での楽観主義を受け入れる方がより良い選択肢である。
悲痛な状況下での楽観主義とは、避けられない痛みや喪失や苦しみと向き合いながらも、希望を忘れずに生きる意味を探す能力のことだ。人生に苦難はつきものであること、はかなさに傷つくこともあることを認識し、受け入れ、そんな人生を予測しつつも、前向きな態度で人生を突き進むことだ。
研究結果によると、悲痛な状況下での楽観主義で人生に向き合う人、特に変化や困難に何度も遭遇すると予測している人は、身体的にも精神的にもストレスに強いことがわかっている。
悲痛な状況下での楽観主義の延長線上にあるのは、賢明な希望と賢明な行動にコミットすることだ。賢明な希望と賢明な行動とは、状況がどうなっているかを明確に見極めて、ありのままに受け入れることだ。そして希望的な態度で「ふうむ、これが現在起きていることか。よし、私にコントロールできることにフォーカスしよう。コントロールできないことに執着しないよう心がけて、自分にできることを全力でやろう。これまでに何度も苦難に直面してきたが、いつも乗り越えてきたじゃないか」と思えるようになる。
流動的な自己認識を育む
状況が変化した時に、私たちが問題を抱えるのは、強いアイデンティティがある時ではなく、強いアイデンティティが1つの仕事や人、概念にこだわり、それに執着する時だ。
自分のアイデンティティを同時に2つの方法で維持できるようが有利である。1つは常に身近にあるいつもの自己で、これははっきりしていて安定している。もう1つは究極の自己で、これは常に変化し続けていて、いかなる努力をも超越する力がある。2番目の自己の存在を心にとどめておくと、失敗や変化を前ほど恐れなくなり、1番目の自己をもっと自在に使いこなせるようになる。