熟睡者

発刊
2023年7月21日
ページ数
281ページ
読了目安
288分
推薦ポイント 2P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

睡眠の質を高めるための方法
睡眠は脳のパフォーマンスや体の健康に大きく影響する。睡眠について科学的にわかっていることをベースにしながら、睡眠の質を高めるためには何が必要かを紹介しています。

太陽の光を浴びる、規則正しい時間に食事をとる、就寝時に室温を上げないなど、睡眠という視点で、日常生活において気をつけるべき様々なことが書かれています。睡眠の重要性を再認識させ、睡眠の質を高めるために何をすべきかを理解できます。

睡眠の質は脳と健康に影響する

スポーツと健康的な食事も大切だが、安定した睡眠・覚醒リズム、睡眠がもたらす休息に注意を払うことは、健康な生活への最初の重要な一歩だ。

良い睡眠には、素晴らしいメリットがある。健康や朗らかな気持ちにつながるのみならず、2型糖尿病や肥満、認知症、うつ病などの病気の予防効果を持つ。また、睡眠は賢さにも影響する。十分な睡眠をとっている人は、記憶力や集中力、創造的思考力が向上するため、学校や仕事で高い成果を出せる。

 

私たちは1日24時間の間に「睡眠」と「覚醒」という2つの異なる世界を生きる。覚醒中に長時間働き続けてきた脳が、睡眠中なら休息をとることができるからだ。日中に吸収する情報量が多いために、1日が終わる頃には、脳はエネルギーを使い果たしてしまう。そして、脳は日中に雨のように降りかかった情報を整理する時間を必要とする。余分な情報のゴミは捨て、新しい情報のために、脳に空きスペースを確保する必要があるのだ。睡眠を十分にとらず、脳内のゴミが除去されないと、脳の老化が早まり、ダメージを受けやすくなる。長期的に見ると、重要な神経細胞のつながりが損なわれ、記憶障害や最悪の場合は認知症の発症を引き起こしかねない。

 

睡眠で回復するのは脳だけではない。消化器系や循環器系など体のあらゆる器官が日中滞りなく機能するためにも、睡眠中の再生は不可欠だ。睡眠中は組織も休憩をとり、細胞は再生し、必要に応じて修復される。

夜の休息中、私たちの体内では「メラトニン」というホルモンが大量に分泌される。これは、誤ってプログラムされた細胞を探し当てる働きを持つことが、研究で明らかになっている。

 

研究によれば、成人では7〜9時間の睡眠をとる場合に有病率が最も低いとされる。但し、個人レベルでは違いがあるが、睡眠の質こそが脳機能と免疫システムの円滑な働きに重要で、健康維持の決め手となる。

 

体内時計を味方にする

私たちは、いつ起き、いつ眠るかを制御する体内時計を持つ。進化の過程で私たちの体は、体内リズムを自然界の昼夜変化のリズムに適応させてきた。食料を手に入れ、外敵から身を守るには、外が明るくて暖かい日中の内に活動する方が有利だったのだ。この昼夜変化のリズムに私たちの体内時計は調整された。私たちは外が暗く寒い夜は眠り、日中は起きているようにあらかじめプログラムされているのだ。

朝、熟睡後に目を覚ました人は充電が完了していて、睡眠負債はゼロだ。覚醒時に人はゆっくりと睡眠負債を蓄積し、起きている時間の分だけ負債は増える。しかし、睡眠負債が溜まっていく間にも、体内時計は私たちに覚醒を維持するよう促し、眠りへの欲求を抑える。体内時計のおかげで、本当は疲れているはずの1日の後半でも私たちはなおエネルギーがあるように感じる。

 

太陽光は、睡眠・覚醒リズムにとって重要な出発点だ。外が明るくなり、覚醒の時間が始まったこと、または暗くなり、それが就寝の時間を意味することを私たちの体が認識できるよう、人の目は、特に朝と夕方の、太陽光に敏感に反応する。朝、網膜の神経節細胞が太陽の光をキャッチすると「マスタークロック」と呼ばれる脳内の視交叉上核へと信号が送られる。マスタークロックは、覚醒状態を制御する脳の領域に信号を送り、目を覚ますよう要求する。

マスタークロックは他にも、メラトニン、コルチゾール、アドレナリンといったホルモンの分泌を促し、夜には体温を下げ、朝になるとまた体温を上げる。

 

タイミングよく眠りにつき、安定した睡眠・覚醒リズムを形成したいなら、日中はできるだけ外で過ごした方がいい。それもできれば、目の網膜が光に特に敏感な朝の方がいい。晴れている日なら、屋外に30分いれば十分。曇天だと1時間必要である。もし太陽の光を浴びることが難しいなら「昼光色ランプ」を設置して問題を解決することができる。

 

就寝時間が近くなると、マスタークロックは体に体温を下げる伝令を送る。体温の低下は体のすべての細胞にある体内時計に、夜が始まって眠りの準備を開始する時間がきたことを知らせる合図となる。したがって、自然な睡眠・覚醒リズムを正しく保つには、就寝前の室内温度を上げないように注意することだ。

就寝前に熱いシャワーを浴びたり、バスタブに浸ったりして体温を上昇させることはいい。皮膚が温められることで血管が広がり、それにより熱の放射と体の冷却が促進される。加えて、就寝直前の手足の皮膚温度の上昇は、脳にとって「体温を下げ、眠りの準備を始める時間がきた」という合図になることが明らかになっている。

食事のタイミングも影響を持つ。規則正しい時間に食事をとることが、体内時計のリズムを整え、いつ眠り、いつ覚醒すべきかを体に知らせる上で役立っていることが、研究で証明されている。