加速するスマホシフト
各世代がどんなメディアに接触しているのか。調査によると50代、60代では「テレビ・ラジオ」のシェアが1位であるのに対し、40代以下は「ネット・デジタル」「動画・音声」「SNS・ブログ」などの割合が大きくなっている。興味深いのは、10代が示す傾向が他のどの世代とも異なっている点だ。10代を見ると、SNS・動画の占める割合が最も高く、動画のシェアも他世代に比べて大きい。一般的に「若い人はネット、年齢の高い人はマスメディア」という2層構造で考えがちだが、実際には現代日本のメディア接触は10代、20代〜40代、50代以上という3ブロックになっている。
これにはデバイスの違いも深く関与しているだろう。若年層はスマートフォンを使って情報接触しているからだ。1日あたりアプリ利用時間を経年で比較すると、2017年は128分、2018年は170分、2019年は191分と大きな伸びを見せている。私たちの生活はさらなるスマホシフトへと傾斜しているのである。
SNSはアイデンティティを構築する場に
Z世代にとってはSNSが大前提になっているから、発信できる何かを持っていること、「キャラ立ち」していること、自分なりのスタンスを持っていることが重要な意味を持つ。社会的に個性を重視するというリスペクト文化もそれを後押ししているだろう。またZ世代においてはリアルとヴァーチャルも等価な位置付けであることから、SNSでどんなアクティビティーを行うのかが自分自身が何者であるのかを規定する。若者がメディアに関わり主体的に発信するのは、情報のインプットとアウトプットによって、自分を表現し、「自己創造」していくためであるという。若年層にとってはSNSでの活動がアイデンティティの構築とは切っても切り離せないのだ。
いつの時代も若者にとっては社会的・性的な見返りの期待できるシグナリングこそが労力と工夫を注ぎ込むに足る最も重要な適応度標示である。適応度標示とは、個々人がどんな性質・特性を持っているのかを他人が知覚できるように示すシグナルのことである。私たちの消費活動は、このシグナリング=見せびらかしが推力となっている。
SNSが適応度標示の場になっているのは、ユーザー側の気持ちの変化という側面に加えて、そうしたモチベーションを刺激するようなアーキテクチャ側の仕組みが存在し、それが私たちの投稿欲を強化する構造ができていることに起因する。
私たちは誰かに何かを伝えたいという利他の気持ちを持ちつつ、自分自身がそれによってどう見られるのかをモニタリングしている。自分がオンライン上で何をシェアしているかによって、自分のアイデンティティの形成と確認を行っている。
ショートムービーの時代
現代のスマホユーザーは、情報を得るだけでなく、自分でそれを生み出すためにもビジュアルコミュニケーションを活用する。今では写真や動画をシェアして、臨場感を持ってダイレクトに伝えることができる。自分が経験・体験したことを「解像度高く」シェアしたいというニーズが、SNSのビジュアルドリブン化を加速させている。
ある説によれば、文字に比べ、写真は7倍もの情報を伝えられるという。さらに、スマートフォンのような小さい画面でやりとりすることがメインになっていくと、文字を読むよりも効率的な伝達の手段が求められるということも関係している。
SNSの多くは、良くも悪くも、自分の良いところをアピールしたくなる場である。2010年代は新しいサービスもどんどんローンチされ、経済も好調で、みんながアゲな気持ちでそういったアクティビティに取り組みやすい世相だった。しかし、2020年の新型コロナウイルスの拡がりと共に、「カッコイイこと」のために外出することは望みがたい選択肢となってしまった。
私たちがシェアするものは、みんながいいね!を押してくれそうな何かを探し求めることから、ソーシャルディスタンスを保つ中で唯一残ったもの、すなわち自分自身を使って一から創作するものとなった。「何かを見せびらかす」のではなく「一人ひとりの姿を見せる」ことの本質的な価値へと回帰してきた。この「姿を見せる」トレンドの中で、アフターコロナにおいて存在感を高めている領域が、誰もが参加できる「ショートムービー」なのだ。ショートムービーのトレンドは待ったなしだ。そのど真ん中にいるのが、TikTokである。
現在では、TikTokのMAUはグローバルで10億人を超えると言われる。しかも、MAUが10億人に到達したソーシャルメディアアプリとしては、史上最速である。TikTokを若者のための手軽な動画アプリだと捉えてしまうと、そのインパクトを過小評価することになる。エンタテインメント性を満たす楽しいアプリであることはもちろん、これからさらによりパブリックな役割を果たす場になっていく兆しが見えてきている。