誰もが対人関係のリスクを避けたがる
イノベーションが成否の鍵を握る世界で組織が本当に成功するためには、優秀で意欲的な人を採用するだけでは十分ではない。彼らには豊富な知識と高い技能と役立ちたいとの思いがあるが、知っていることを、それが必要とされる重要な局面で必ずしも提供できるとは限らない。
理由は、彼らの知識が必要とされていることを、彼ら自身が認識できていないからという場合もある。だが、もっとよくあるのは、彼らが目立つことも、間違うことも、上司の気分を害することもしたがらないからだ。知識労働が真価を発揮するためには、人々が「知識を共有したい」と思える職場が必要である。
私たちは様々な付き合いの中で情報をコントロールし、それによって、他人に与える自分の印象に絶えず影響をもたらそうとしている。これは意識的にも無意識にも行っている。勤め先で無知・無能に見えたり、混乱をもたらす人だと思われるような対人関係のリスクを誰もが避けたいと思っている。
無知だと思われないように質問しない。ミスや弱点を認めない。事態をややこしくする人間だと思われないように提案しない。意義ある行動より見た目の申し分なさを重視するのは、社交の集まりでは妥当かもしれないが、職場ではそうした傾向によって重大な問題が起こりかねない。イノベーションが阻害されたり、サービスの質が低下したりする。それなのに、他人に軽視される結果を招くかもしれない行動を避けることが、大半の職場でほとんど習慣になってしまっている。
心理的安全性とは
対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境であること。それが心理的安全性だ。意義ある考えや疑問や懸念に関して率直に話しても大丈夫だと思える経験と言ってもいい。心理的安全性は、職場の仲間が互いに信頼・尊敬し合い、率直に話ができると思える場合に存在する。
心理的安全性のある職場には、1回1回は些細でも、やがて重大な影響をもたらすかもしれない沈黙はほぼ生まれない。代わりに、人々は思うがままを話す。そして、率直な本物のコミュニケーションを促進し、問題とミスと改善の機会にスポットを当て、知識とアイデアの共有を増やしていく。
心理的安全性は野心的な目標を設定し、その目標に向かって協働するのに有益だ。心理的安全性は、より率直に話し、好奇心旺盛で、協力し合い、結果として高い成果をあげる職場の環境の土台である。世界中の多くの研究では、心理的安全性が様々な労働環境や業界で高パフォーマンスを促進することが確認されている。特に、複雑で相互依存する環境において、チーム及び組織のパフォーマンスに影響する。
心理的安全性は、単なる職場の個性ではなく、リーダーが生み出せるし生み出さなければならない職場の特徴である。心理的安全性はグループの特徴として表れ、対人関係の文化が組織内のグループごとに大きく異なることが明らかになっている。強力な企業文化を持つ会社であっても、部署によって心理的安全性が高かったり低かったりする。
心理的安全性の構築はリーダーの極めて重要な責務である。従業員が貢献、成長及び学習、協力できるかどうかは、心理的安全性によって左右される。
心理的安全性を確立するための方法
①土台をつくる(期待と意味を共有する)
・仕事をフレーミングする
失敗、不確実性、相互依存を当たり前とし、率直な発言の必要性を明確にする
・目的を際立たせる
危機にさらされているものと、それがなぜ、誰にとって重要であるかを意識する
②参加を求める(発言が歓迎されるという確信を持たせる)
・状況的謙虚さを示す
完璧でないことを認める
・探求的な質問をする
よい質問をする。集中して「聴く」手本を示す
・仕組みとプロセスを確立する
意見を募るためのフォーラムを設ける。ディスカッションのためのガイドラインを示す
③生産的に対応する(絶え間ない学習へ方向づける)
・感謝を表す
耳を傾ける。受け容れ、感謝する
・失敗を恥ずかしいものではないとする
未来に目を向ける、支援を申し出る、次のステップについて話し合う
・明らかな違反に制裁措置をとる