『論語』と『韓非子』
「うまく機能する組織とはどのようなものか」という難問に対して、全く正反対の立場から解答を出そうとした2つの中国古典が『論語』と『韓非子』だ。共に中国の紀元前、戦乱が真っ盛りだった春秋戦国時代に著された。両者の考え方は対極に分かれる。
①人のあり方
論 語:人間、志が重要だ
韓非子:しょせん人間は利益に目がくらむ
②政治において重視するもの
論 語:上下の信用
韓非子:信用など当てにしていたら裏切られる
③上下関係
論 語:上司と部下は敬意を持った関係であるべき
韓非子:足を引っ張りあっているのが常態だ
④法やルールに対する態度
論 語:法やルールに頼るのはマズイ
韓非子:法やルールこそ統治の基本
『論語』
ひとまず人を信用してかからないと、よき組織など作れるはずがない。
『韓非子』
人は信用できないから、人を裏切らせない仕組みを作らないと、機能する組織など作れない
孔子の理想とした組織
孔子は、成果の上がる理想的な組織として「よき家族」を雛形とした組織を描いた。上下、同僚間を問わずお互いがお互いを信頼し、自分の得意とするところで力を発揮。さらに助け合い、育み合い、活かし合うような組織。このような組織を生み出すための胆を「上に立つ人間の品性・品格」に見ていた。皆から憧れられ、手本とされる人間が組織の上に立つならば、下は皆そのリーダーを慕い、信頼し、整然と組織を回すようになるだろうと考えた。しかし、孔子の理想とした「徳治」には問題もあった。
①徳の高い人物はそうそういない。たとえ今はいたとしても、後々続かなくなる
②徳を持った人物自体、変節してしまうことがある
③徳と信頼でしか上下が結びついていないので、現場の暴走を止める術がない
④自分を育ててくれた先輩や上司の悪や問題点を、咎めたり是正したりできなくなる
こうした問題への解決策として登場するのが、韓非に代表される法家の思想だった。
韓非の理想とした組織
韓非は「人は信頼できない」という前提をもとに機能する組織を作ろうとした。そして「人は利害で動く」というのが、韓非の基本的な前提であった。さらに韓非は、人を動かす際には、名誉が物質的な利益以上の誘因になるとも考えていた。
つまり君主たるもの、人が本能をむき出しにしがちな「恩賞」「厳罰」「名誉」という三要素によって共通の価値観というレールを敷き、組織をうまく1つにまとめていけといった。この制度の有り様を決めるものを「法」と呼ぶ。韓非は、皆が平和に暮らす理想的な国を作ろうとしていたわけではない。戦乱が進む状況の中で、内部から自壊しそうな組織を立て直し、生き残れる国を作りたかったのだ。