プライオリティの危機
現代のビジネスを特徴付ける要素は、スピードと破壊的変化だ。次から次へと登場する次世代テクノロジーの波がビジネスの地平を継続的に変化させている。この結果、地位を確立した企業にとって2つの緊急課題が生じる。自社が破壊的変化を起こしたいと考えている市場では「次の波を捕まえる」ことが必要だ。同時に自社が既得権を得ており他社からの破壊的変化にさらされている市場では、防御側として動き「次の波が自社を捕まえることを防ぐ」ことが必要だ。いずれの場合でも企業は「プライオリティ(優先順位)の危機」を経験することになる。トップ中のトップ企業でない限り、この危機を回避するのは難しい。
他社のビジネスに破壊的変化をもたらすためには、自社のポートフォリオに新しいビジネスラインを追加しなければならない。しかし、ここにプライオリティの危機が生まれる。取り組みを始めるのはたやすいが、先に進むに連れて十分な経営資源がないことが明らかになっている。いかなる先進カテゴリーにおいてもマーケティング、セールス、サービス、パートナー提携は極めて非効率的なプロセスになる。これは特に既存のビジネスラインと比較すれば明らかだ。
経営資源を適切に活用する
攻撃側に回って次の波を捕まえようとしているのか、防御側に回って次の波に捕まらないようにしているのかにかかわらず、戦略的な事業ポートフォリオマネジメントを実施する上では、「ゾーンマネジメント」によって、経営資源を適切に活用する必要がある。
この基本的な考え方は、企業のマネジメントを4つのゾーンに分割することにある。各ゾーンには独自の目標、つまり、当期の収益パフォーマンス、そのパフォーマンスを推進するための生産性向上の取り組み、将来のイノベーションの育成、そして、そのようなイノベーションの規模拡大がある。
4つのゾーンが相互に関与することで、地位を確立した企業が、既存ビジネスを維持しつつ新たなビジネスラインに乗り出し、既存ビジネスに対する破壊的変化による攻撃も避けることができるようになる。
ゾーンマネジメントの基盤は年間計画で確立される。最初に業績、生産性、インキュベーション、変革の追求という4つのゾーンにそれぞれいくら費やすかを、そして、どの取り組みがどのゾーンでプライオリティを得られるかを、最後にどのゾーン間の依存関係を最も綿密に監視すべきかを明示的に宣言する。
4つのゾーン
既存の全社事業ポートフォリオに新規ビジネスラインを追加し、総収益の10%以上の収益をそこから獲得できるようにし、急速に拡大していく。これがゴールラインだ。
①パフォーマンスゾーン(持続的イノベーション×収益パフォーマンス)
既存事業で成果を出す。(ライン部門)
翌会計年度の事業による投資回収
②プロダクティビティゾーン(持続的イノベーション×支援型投資)
生産性を上げる。(スタッフ部門)
翌会計年度の事業による投資回収
③トランスフォーメーションゾーン(破壊的イノベーション×収益パフォーマンス)
新規事業を拡大する。(CEO直下の新部門)
2〜3年で投資回収
④インキュベーションゾーン(破壊的イノベーション×支援型投資)
新規事業を育む。(R&D、事業開発部門)
3〜5年で投資回収
破壊的イノベーションの取り組みと持続的イノベーションの取り組みを分離し、前者を新規ビジネスとその運営モデルにフォーカスさせ、後者を既存ビジネスの拡張と改良にフォーカスさせなければならない。同時に「収益パフォーマンス」を求める企業活動と「支援型投資」となる企業活動を分離し、前者を現在の業績に、後者を将来への種まき効果にフォーカスさせなければならない。
4つのゾーンの目標や管理手法は様々であるため、これらは4つは分離しておかなければならない。同時に、4つのゾーンは協調していかなければならない。