テクノロジーに耳を傾ければ未来がわかる
どのような発想をすれば未来を予測できるのか。心掛けているのは、テクノロジーに耳を傾け、それがまるで生き物であるかのように「テクノロジーは何を望んでいるのか?」と問いかけることである。
世界を変化させている主な力はテクノロジーであり、それは決定論的なもので、電気というものを発明すれば、次は必然的に電波を発明することになると考えている。そして次はそれがWi-Fiへと続く。
例えばオートメーション(自動化)のようなテクノロジーは不可避である。もちろん、その特性を決める選択肢、誰が規制し所有するのか、共有物かオープンなものか、商用か非商用か、あるいは国内だけか国をまたぐかといったような、この中のどれを選ぶかで、オートメーションというテクノロジーは大きく違ったものになる。しかし、我々には、オートメーションを採用すべきか否かという選択の余地はない。同様にAIに関しても選択の自由はない。
百万人が協働する未来がくる
AIはこれから50年間にわたって、オートメーション化や産業革命に匹敵する、もっと大きなトレンドになる。AIなどのテクノロジーが進むと、これからは仕事の仕方が大きく変わると言われている。色々なところで、百万人単位の人たちが1つのプロジェクトで同時に一緒に働くことが可能になる。
同時に百万人が働くためには、現在はまだない新しいツールが必要になる。例えば、AR(拡張現実)の機能がついたスマートグラスである。ARは、仕事を相互に行う場合に、物理的な交流を容易にするテクノロジーである。
さらに、リアルタイム自動翻訳によって、世界中の才能を持った人たちが、意義ある形でプロジェクトや仕事に参加できるようになる。
近年提唱している「ミラーワールド」という来たるAR世界も深い共同作業が必要になる場である。ミラーワールドとは、現実の世界の上にバーチャルな世界が覆いかぶさる。何百万人もの人が関わる、世界規模の何らかのレイヤーである。人々は現実世界ではそれぞれの住んでいる地域にいるが、同時に、他の場所にいる人と地球サイズのバーチャルな世界を一緒に紡ぐのである。
ミラーワールドでは、現実世界の上に重なった、その場所に関する情報のレイヤーを通して世界を見る。ARは、スマートグラスなどを通して現実世界を見る。すると現実の風景に重なる形で、バーチャルの映像や文字が出現する。
ミラーワールドの世界では、歴史は「動詞化」する。例えば、空間に手をかざしてスワイプするだけで、時間をさかのぼってその場所に以前にあったものを呼び出せる。ある意味で三次元空間に時間の要素を加えた4Dの世界であるとも言える。
世界中のどこにでも、実物と同じサイズのバーチャルな「デジタルツイン」が存在して、スマートグラスをかけた時だけ、実物の上に投影される。近い将来、現実の世界にある道路や部屋、建物などすべてのもののデジタルツインがミラーワールドに出現するようになる。そして、それはゲームやナビゲーション、授業やトレーニングなどあらゆるものに利用できるようになる。
5000日後の世界
ミラーワールドとはつまり、世界が機械によって認識できるようになる、ということである。第一のプラットフォームであるインターネットは、世界中の情報をデジタル化し、検索可能にして答えを出せるようにした。
その次の世代の第二のプラットフォームは、人間の行動や関係性を捉えて、人間同士の関係をデジタル化するというものだった。それは「ソーシャルグラフ」と呼ばれ、機械が人間関係を認識できるようにしたもので、人間関係や行動に対してAIやアルゴリズムを適用できるようになった。
そして、それに続く第三のプラットフォームが、物理的な全世界をデジタル化したもの「ミラーワールド」である。現実の世界や関係性を検索し、それを利用して新しいものを生み出せるよう、AIやアルゴリズムを適用するものである。その優れた点は、それらを見ることができるだけでなく、対象がデジタル化されているので、機械がそれらを読めるということである。
こうしたARの世界での勝者は、GAFAのどの会社でもないだろう。破壊的テクノロジーの歴史を振り返れば、ある分野で支配的だった者が次の時代のプラットフォームとしてそのまま残ることはなかった。次に勝つのはARの会社だろう。
インターネットが一般的に使われ始めて約5000日が経った頃、ソーシャルメディアが歩き始めた。そして、現在はソーシャルメディアが歩き始めてから約5000日が経ったところである。これからの5000日は、今までの5000日と比べてもっと大きな変化が起こるだろう。