コモディティ化を乗り切る仕組み
「コモディティ化」とは、特定のジャンルにおいて、どの商品の品質も同じように高まると、顧客にとって代わり映えしなくなってしまう状態を指す。結果として際限のない低価格化競争になるという流れに至る。
「コモディティ化」の波は、「人材」についても押し寄せてきている。「コモディティ化」した人材は、労働市場で価値が低いので、賃金低下、労働の長時間化に陥る事になる。一方で、一部の有用な人材には需要が集中し、コストが高くつく。この波をどう乗り切ればいいか。
「人」そのものを商品として販売し、その商品の個性や特異性で勝負する「タレントビジネス」は、究極の人材ビジネスとも言える。このビジネスには3つの特徴的な「壁」がある。
①どの人材が売れるか分からない
②稼働率(こなせる仕事量)に限界がある
③売れれば売れるほど契約の主導権や交渉力がタレント側に移る
まとめ売りの構造
これら問題点を解決する方法がある。タレントを個別に作って売り出すのではなく、複数のタレントを包括する「プラットフォーム」を作り、そのシステムごとまとめて売ろうというものである。その象徴的な存在が「AKB48」である。AKB48方式は、実はとても古典的なモデルである。例えば、宝塚歌劇やコンサルティング会社や弁護士事務所に代表される「プロフェッショナルファーム」も似たような仕組みを採用して経営効率を上げている。
一般企業においても、競争や移り変わりが激しくなれば、誰もが持てる能力や平凡な人材にニーズはない。非常に高度な技術、あるいは特殊な才能がものを言う。何が求められているかも変わっていく。であれば、いろいろな人材にチャレンジさせて、市場の反応や時代のニーズに合わせて自ずと選抜させていった方が合理的である。
もちろんこのやり方は、試される人材にとっては厳しい。だからあくまで、自らの能力を高め、優れた人材として評価を受け、高い報酬を得たいという者だけがこの競争に参加すればいい。こうした競争が嫌なら「コモディティ化」された人材として、大きな夢は見ず、賃金や条件の不満は飲み込んで、こつこつ働くしかない。
高い報酬を得るにはどうするか
大企業と中小企業では構造的に「給与格差」が存在している。この理由は、マクロで見れば、従業員1人当たりの「付加価値額」が大企業の方がはるかに高いからだ。大企業と中小企業では1人の社員に割り当てられている「資源量」が大きく違う。社員の資源に対する利益率があまり変わらないのであれば、大企業の方がより容易に利益を上げる事ができる。
従業員1人当たりに投入されている資源量を「資本装備率」と呼び、資本から生まれる付加価値額の比率を「資本生産性」と呼ぶが、多くの産業で、大企業と中小企業で資本生産性はそれほど変わらず、差がつくのは資本装備率である。結局のところ、スキルの高低というよりも、元々社員に与えられている資源量で給与差がついている。会社が所有している「資本」、即ち設備、ノウハウ、ブランドといった「儲ける仕組み」を社員に貸し与えているかどうかが問題である。
ビジネスにおいて多くの利益の分け前を得られるプレイヤーは、資本家、投資家の側である。一方、資本を使わせてもらっている事で、利益を生む事に貢献している労働者は、利益の源泉そのものではないし、替えが利く存在だから、報酬を得られにくいという構造になっている。より高い報酬を得るには、1つは資本装備率の高い企業に行くこと。もう1つは、自らが起業等で「資本=儲ける仕組み」の形成に関わり、リスク・リターンをシェアする事で、大きな分け前を得られるようにする方法である。