「脱ルール」のカルチャー
なぜネットフリックスは何度も世界の変化に対応することができたのに、ブロックバスターにはそれができなかったのか。ネットフリックスにあって、ブロックバスターにはないものが1つだけあった。プロセス(手続き)より社員を重視する、効率よりイノベーションを重んじる、そしてほとんど制約のないカルチャーである。
ネットフリックスは「能力密度」を高めて最高のパフォーマンスを達成すること、そして社員にコントロール(規制)ではなく、コンテキスト(条件)を伝えることを最優先している。そのおかげでネットフリックスは着実に成長し、自らを取り巻く世界と社員のニーズ変化に応じて変化することができた。
「自由と責任」のカルチャーを築くための前提条件
ネットフリックスでは、ミスを防ぎ、ルールに従うことより、柔軟性や自由やイノベーションを重視したいと考えた。その一方で会社が成長する段階では、ルールや管理プロセスがなければ組織がカオスに陥ることもわかっていた。
ネットフリックスは何年にもわたって試行錯誤を繰り返し、徐々に進化していき、ようやく正しいアプローチを探り当てた。社員に守るべきプロセスを与えれば、自らの判断力を働かせて考える機会を奪ってしまう。そうではなく自由を与えれば、質の高い判断ができるようになり、説明責任を果たすようになる。それによって社員の幸福度や意欲は高まり、会社も機敏になる。但し、社員の自由度をそこまで高くするためには、まず土台として2つの要素を強化しなければならない。
①能力密度を高める
一般的に企業がルールや管理プロセスを設けるのは、社員のだらしない行為、職業人にふさわしくない行為、あるいは無責任な行為を防ぐためだ。だがそもそもそのような行為を働く人材を採用せず、会社から排除できれば、ルールは必要なくなる。優秀な人材で組織をつくれば、コントロールの大部分は不要になる。能力密度が高いほど、社員に大きな自由を与えることができる。
②率直さを高める
優秀な人材はお互いからとても多くを学ぶことができる。しかし常識的な礼儀作法に従っていると、互いのパフォーマンスを新たな次元に引き上げるのに必要なフィードバックをできなくなる。有能な社員が当たり前のようにフィードバックをするようになると、全員のパフォーマンスの質が高まるとともにお互いに対して暗黙の責任を負うようになり、従来型のルールはますます不要になる。
コントロールを減らす
「能力密度を高める」「率直さを高める」という2つの要素が整ったら、コントロールを撤廃する。まず社内規程の不要なページを破り捨てるところから始める。出張規程、経費規程、休暇規程はすべて廃止していい。その後、社内の能力密度が高まり、フィードバックが頻繁かつ率直に行われるようになったら、組織の承認プロセスはすべて廃止してもいい。そして管理職には「コントロールではなくコンテキストによるリーダーシップ」という原則を教え、社員には「上司を喜ばせようとするな」といった指針を与える。
このようなカルチャーが醸成されてくると好循環が生まれる。コントロールを撤廃することで「自由と責任」のカルチャーが生まれる。それが一流の人材を引き寄せ、さらにコントロールを撤廃することが可能になる。
自由と責任のカルチャーを構築するプロセス
①最高の同僚だけで構成される職場環境を整える。(能力密度を高める)
②お互いに率直なフィードバックを与え合う環境を整える。(率直さを高める)
③休暇、出張、経費に関する規程などを撤廃する。(コントロールを減らす)
④個人における最高水準の報酬を払う。(能力密度を一段と高める)
⑤会社の秘密を公表し、当事者意識とコミットメントを高める。(率直さをさらに高める)
⑥意思決定にかかわる承認を一切不要にする。(もっと多くのコントロールを廃止する)
⑦定期的に部下を評価し、最適な人材であるかを確認する。(能力密度を最大限高める)
⑧360度評価、ライブ360など、フィードバックが必ず交換される仕組みを導入する。(率直さを最大限高める)
⑨目標管理ではなく、明確なコンテキストを設定し、選択の自由を与える。(コントロールをほぼ撤廃する)
フィードバックのガイドライン「4A」
ネットフリックスの管理職は、フィードバックの正しいやり方と間違ったやり方を部下に教えるのに相当な時間をかける。
・フィードバックを与える
①AIM TO ASSIST(相手を助けようという気持ちで)
②ACTIONABLE(行動変化を促す)
・フィードバックを受ける
③APPRECIATE(感謝する)
④ACCEPT OR DISCARD(取捨選択)
フィードバックのやり取りが当たり前になると、社員はそれまでより速く学習し、一段と仕事ができるようになっていく。