デジタル技術は新たな顧客価値を生む
デジタル技術は、単に製品やサービスのポートフォリオを販売するというよりも、顧客の問題を解決することを可能にし、顧客もそれを求めている。既存の製品がどれだけ愛され、必要とされているとしても、企業は、デジタル技術がもたらす機能を活用して、カスタマー・バリュープロポジションを高め続けなければならない。
デジタル技術は、企業の既存の製品やサービスに対して、2つの大きな影響を与え得る。これらは、いずれも収入の増加や顧客満足度の向上をもたらす。
- 技術そのものによって顧客体験を向上させる
- 製品に新しい、より改善された機能を付加することができる
デジタル技術は新たなカスタマー・バリュープロポジションを形成する機会を提供する。収入をもたらす新たなバリュープロポジションを作成するためには、ソフトウェアとデータに基づくデジタルサービスが必要である。
多くの企業が、デジタルサービスを提供できない理由は、企業がデジタル仕様にデザインされていないからである。社内の人材、プロセス、技術の相互作用により、新サービスの試行、そこから得られる学習、破棄、強化、再構築、スケールアップに制約が生じてしまい、新たなバリュープロポジションの提供が困難になる。
企業のデジタル化を成功させるために必要な5つの組織能力
デジタルに対応した企業デザインを行うためには、企業の人材、プロセス、技術を大幅に変えることが必要である。企業のデジタル対応化を成功するために強化しなければならない組織能力は、次の5つである。
①シェアード・カスタマーインサイト
顧客の購買意欲を高める製品・サービスの開発や顧客ニーズにデジタル技術を活用する方法に関する組織的学習
- シェアード・カスタマーインサイトは、企業がどのようなデジタルサービスを開発でき、顧客が何に価値を見出すかを探る実験を継続的に行うことから見出される。従業員がデジタルサービスのアイデアを試し、学習、共有することを推進するために、どのようなメカニズム(ラボ、コンテスト、ベンチャー事業への資金拠出など)を構築できるかが重要である。
- テスト&ラーンの環境を作るためには、根拠に基づくカルチャー、即ち仮説を立て、実験してデータを収集し、結果を測定し、成果を次のステップにつなげる人材が必要である。
②オペレーショナルバックボーン
企業の中核業務を支援する標準化、統合化されたシステム、プロセス、データ
- デジタル化は、オペレーショナルバックボーン(整合のとれた一連のシステム、データ、プロセスで業務の効率化と質の高い取引データ及びマスターデータを支えるもの)を構築して、維持する取り組みでもある。デジタル化で実現するオペレーショナルエクセレンスはデジタル対応化のための最低必要条件である。
- オペレーショナルバックボーンを構築するためには、染み付いた業務習慣を捨て去り、既存の権力構造を破壊する必要がある。さらに業務に不可欠なマスターデータと取引データを取得するために、統制のとれた業務プロセスを導入することも必要である。
③デジタルプラットフォーム
デジタルサービスの開発を迅速に行うために使用するビジネス、データおよびインフラストラクチャのコンポーネントのリポジトリ
デジタルサービスのスピーディーなイノベーションの基盤となるデジタルプラットフォームを構築するためには、ビジネスをコンポーネントの観点から検討することが必要である。
④アカウンタビリティーフレームワーク
自律と連携のバランスが取れたデジタルサービス及びコンポーネントに関する責任の割り当て
- チームへの権限委譲に伴う混乱を避けるには、デジタルビジネスのためのアカウンタビリティフレームワークが必要である。これによって、個々のチームの自律とチーム間の協調をバランスさせることができる。そのために、チームの明確なミッションを設定することが必要である。
⑤外部デベロッパープラットフォーム
社外に開放されているデジタルコンポーネントのリポジトリ
- 顧客のあらゆるニーズに、自社単独で時宜を得た最善のソリューションを提供できない限り、デジタルサービスの創出のためには外部パートナーの創造力を活用すべきである。そのために外部デベロッパープラットフォームが必要である。
各ビルディングブロックを適切に構築すれば、デジタルサービスに関するイノベーションを推進することができ、デジタルサービスが生み出す収益、利益、顧客満足度を向上させることができる。