社会集団の健全さに関する3原則
組織は成功すると成長する。その結果、どうしても分断や非効率が生じる。大勢の人との関係に注意して管理する人間の能力には限りがあるからだ。効果的な集団やチームをつくるには、以下の3原則と、それらの集団やチームの明確な目的との間で慎重にバランスをとる必要がある。
①第一原則
集団の規模がその集団の健全さの強力な決定要素である。人は他者を知り、他者からも知られていれば活躍する。
②第二原則
相互関係の質は、集団の規模が大きくなるにつれて低下する。私たちは社会的活動に充てる時間の60%をわずか15人に費やす。
③第三原則
恐怖やストレスによって大量のコルチゾールが分泌されると、様々な好ましくない結果につながる。これに対して、エンドルフィンなどの神経伝達物質は安心感を与える。このポジティブなホルモン応答をもたらすのは、抱擁や愛撫など「社会的毛繕い」と呼ぶものである。私たちは、親しい間柄以外の人とも、握手する、食事を共にする、経験を共有するなど数種の社会的習慣を発達させた。これらの行為によっても同じホルモン応答が確認される。
大規模な組織は、ヒトにとって自然な状態ではない。人類は進化の大半において、30〜50人の極めて小さな集団で生きてきた。私たちの心理と行動が適応しているのは非常に小さな世界であって、現代人が暮らす大都市や仕事をするメガ組織ではない。現代社会においてあらゆる人間の組織が直面するジレンマとストレスは、私たちの本来の姿と現在暮らしている環境間の緊張状態によって生み出される。
コミュニティの規模の上限
ダンバー数とは1人の人がある時点で人間らしい関係を維持できる人数の上限を意味する。この数値は平均でほぼ150人である。この150人より疎遠な関係の人に対しては、私たちは利他的行動を取るのにより慎重になる。遅かれ早かれ見返りを期待するようになる。150人の境界線の外では、相互関係は一種の取引のようになる。
150人の上限が重要であるのは、コミュニティの規模がこれを超えない限りにおいて、大多数の問題は民主的な直接交渉で簡単に解決できるからだ。だが、この上限を超えると「スケーラー・ストレス」が生じて、集団がどんどん不安定になる。交渉が難しくなり、コミュニティ内の情報の流れが滞り、物事が思い通りに進まない。相互に連絡不可能なサイロ(派閥や縄張り意識)が生まれ、人々は疑心暗鬼になって相手を信用しなくなる。こうなると、何らかのより正式な管理システムによって社会関係と業務を管理するしかない。
150人というダンバー数は、私的な社会的ネットワークの一連の円(層)の1つにすぎない。これらの層は周りに1組の同心円を形成する。円は非常に特徴的な共通パターンを持つ。各層にはすぐ下の層の3倍の人がいて、層の人数は、1、5、15、50、150、500、1500、5000となる。各層は、中心にいる人との接触回数と情動的な近さに対応する。つまり、各層はそれぞれの関係の深さを示す。
これらのパターンは世界のどこでも変わらない。オンラーンゲームの世界でも同じだ。プレイヤーは暫定的に5人から15人の範囲内で常に入れ替わる協力関係を結ぶ。
接触頻度が減ると関係は弱まる
個人の社会的ネットワークが持つ層構造は、メンバー同士の接触頻度によって決まる。誰かが5人の層に属すためには、週に少なくとも一度はその人に連絡する必要がある。15人の層なら1ヶ月に1度、150人の層なら1年に1度だ。これより接触回数が少ないと、その人は数ヶ月の内に次の層に落ちてしまう。
一般的には、交流の40%が中央のコア5人に、別の20%が15人の層の内の10人に割かれる。つまり、シンパシー集団の15人が私たちの社会資本、時間、労力、注意、情動的な関与の60%を専有する。
重要な教訓は、自分が属している円に課せられた要件を満たす努力を続けなければ、中心にいる人との関係は急速に弱まるということだ。そうなると友人関係はゆっくり坂を転げ落ち、やがては友人の円から抜け落ちて知り合いの層に入ってしまう。この変化は3〜6ヶ月以内に起きる。
ダンバー数に基づいて組織を構成し、管理する
組織のサイズと広がりは人間が生み出したどんな組織にとっても大きな問題である。階層構造を持つ伝統的な組織において、リーダーが大勢の従業員に対処する唯一の現実的な方法は、これらの従業員を類別化・単純化することだ。真の意味での個人的な人間関係を結ぶにはそもそも人数が多すぎる。
リーダーは大きな組織の中で信頼を築くのに何が必要であるかに気づかなくてはいけない。さらに組織を構成するユニットの成長を管理する戦略を立案し、これらのユニットがダンバー・グラフの隣接する層の間に落ちてしまわないように留意すべきである。