経営者自身が発信すべき
経営者の言葉が届かなくなった瞬間、会社は緩やかに死に始める。経営者の言葉が社員に届かなければ、社員は何のために働いているのかがわからなくなり、離れていく。採用候補者に届かなけば「なぜその会社で働くべきなのか」を理解してもらえないので他の会社に行ってしまう。投資家や株主に届かなければ、お金も集まらない。
企業が「共感の輪」を広げていくことができたら「商品・サービスを買いたい」「一緒に働きたい」「出資したい」と思ってくれる人はどんどん増えていく。そのためにもまずは、事業にまつわるあらゆる営みのど真ん中にいる経営者が言葉を発し続けなければならない。
その際、経営者という「個人」が言葉を発することが大切である。人は個人だからこそ「体温」や「人となり」を感じる。それが共感を生む。企業アカウントに無理やりキャラづけするよりも、経営者個人が前に出て「どんな考えを持っているのか」「どれほど商品に情熱を持っているのか」を伝えることが効果的であり、本質的である。人は人に反応する。
人を動かすコンテンツを発信せよ
企業が発信すべきなのは「情報」ではなく「コンテンツ」である。これまでは情報自体が希少で価値があったため、情報を流すだけでも見えてもらうことができた。しかし今は、誰でも発信できるようになり、ただの情報では見向きもされない。だから、コンテンツにする必要がある。どんな産業であってもコンテンツを武器にすれば、会社の魅力を伝えることは可能である。
コンテンツとは「何かしら心が動くもの」である。コンテンツになり得るかどうかは「感情」が生まれるかどうか。人の心を動かすために必要なものは次の2つである。
- 面白いこと:エンターテインメント
- 役立つこと:人は悩みごと、困りごとを解決してくれるものに飛びつく
商品や会社の紹介、採用に関する記事であっても、光の当て方を変えて「面白いこと」や「役に立つこと」に編集し、コンテンツ化することは可能である。
多くの経営者は、自分の思いを言語化するところまではやっている。そこから「どうすれば読んでもらえるか」というコンテンツ化ができていない。広告・宣伝・広報なども、きちんと「コンテンツ」にできれば届くはずである。
コンテンツのつくり方
①経営者の年表を作る
年表は、経営者が自分で原稿を書く時や、広報や社員の方などが経営者に取材をする時の補助線になる。年表を作ったら、次は人生の棚卸しをする。
②まず自己紹介をする
知らない人の話は聞いてもらえない。発信にあたっては、まず「自分は何者なのか」を伝える必要がある。最初から事業内容やビジョンの話をしても読んでもらえない。
自己紹介として「経営者の半生」をまとめてみるのは王道である。「普通の家庭で生まれ育ったのに、リスクを取ってまで経営者になった」というのが面白いのである。特に創業者であれば、会社を作る前後の「創業秘話」は最強のコンテンツである。「なぜ会社を作ろうと思ったのか」「一番苦労した部分はどこか」「どうやって人を集めたのか」を書いていくだけでも、面白いストーリーになる。この時、成功話、自慢話は嫌われるため、苦労話や失敗話を書く方が良い。
苦労したところからどう立ち直ったのか、失敗して、その苦境をどう打破してきたのかというストーリーを書けば、読み手を励ましたり、勇気を与えたりすることができる。
③原体験とともにビジョンを書く
ビジョンだけをまとめても、そこに「人」が見えないので読んでもらえない。ビジョンを語る時は「原体験」と共に書く。具体的なエピソードが混ざることで、経営者のパーソナリティも伝わり、面白い記事になる。
コンテンツマップ
コンテンツは、次の項目の組み合わせで12のテーマをつくることができる。
- 面白い/役に立つ
- 個人/法人
- 過去/現在/未来
まずはこれを1年かけてまとめていくことで、コンテンツを割と網羅することができる。オススメは、経営者個人の半生から始めて、最後は未来の話をするという、以下のような流れである。
- 経営者の半生:自己紹介
- キャリア論:経営者が考える理想のキャリア設計
- 日々の出来事
- 日々の仕事術
- 夢:個人の夢と原体験
- 人生設計/サバイバル:ビジネスパーソンは今後どうやって生きていくべきか
- 社史:経営者個人の視点で会社の歴史を綴る
- 問題解決/ブレークスルー:ターニングポイントとなった出来事など
- プロジェクトX:商品やサービスの誕生秘話
- ビジネスモデル/カルチャー
- ミッション/ビジョン
- 未来予測/戦略
コンテンツを発信する頻度は、月に1回程度が理想である。1年間コンテンツ発信を強化したら、「発信の基盤」はできる。その後は、普通に情報やコンテンツを出していっても届くようになる。