会社は意義を生み出す場にシフトしていく
今、企業現場で起こっている変化の本質を端的に言えば、「どれだけ儲かるか?」というシンプルなゲームの中に、「良い儲けなのか?」という全く異質の基準が入ってきているということだ。儲けは大事だが、儲けるプロセスの中で、環境破壊をしていたり、人権を侵害したりしていたら、それは「良い儲け」とは言えない。
今までは儲かってさえいれば、資本主義のゲームの中でプレイを続けることができた。しかし、今はただ儲かっているだけで、社会的にプラスの意義を生み出していない事業からは、ゲームへの参加資格が剥奪される。
組織としての「思想」をデザインし、それを具体的な現実のビジネスにつなげていく行為は、もはや「余力のある大企業が片手間にやる仕事」などではない。企業の最も重大な課題の1つになり始めている。このような環境変化を受けて、これからの会社経営には「新たな常識」が生まれつつある。
それは会社は「意義を生み出す場」にシフトしていくことである。企業が社員に「意義」を感じる体験を提供できれば、社員は放っておいてもモチベーション高く仕事をする。すると結果的にイノベーションが起きやすくなる。これからの企業においては、理念こそが経営資源の核なのである。
理念経営2.0
企業理念をつくる時、これまでは創業者が日々の経営を通じて大事にしたい原則を言語化し、憲法のように制定していた。しかし、現代では創業者がつくった理念を一方的に浸透させようとしても、社員にはなかなか響かない。それは、世の中の価値観が多様化し、「トップの価値観=組織の価値観」とはなりにくくなっているからだ。
これからの企業理念は「社長の誓い」ではなく、「みんなの物語」の源泉としての性格を持つようになる。そんな理念をつくるには、組織の中に暗黙裡に存在する思想を掘り起こし、言語化していくことが必要となる。この「みんなの価値創造の物語を生むためのリソース」として企業理念を位置付けていくあり方は、理念経営2.0と呼ぶことができる。
重要なのは、社員それぞれが自分たちの理念について、常に自問自答して語り合う場を持つことだ。経営者や一部のメンバーだけでつくったステートメントを一方的に社員に押し付け、何度も復唱させたりして教え込んでいくものではない。
こうした仕掛けの最たるものが「問い」だ。魅力的な問いかけを次々とメンバーたちに投げかけて、どんどん理念が更新されていくようなサイクルをつくることが求められている。
「自分たちは何のために存在するのか?」「自分たちのミッションは何なのか?」。こうした語り合いが蓄積されていくことで、1人1人の中に、そして組織の中に思想の根が広がっていき、事業そのものが堅固になっていく。
理念を生み育てる問い
①ビジョン:私たちは将来、どんな景色をつくり出したいか?
社員1人1人が、ビジョンを実現した状態をありありとイメージできて、それにワクワクし、毎日仕事に行くのが楽しみになる。それが本当の意味で「ビジョン」があるという状態だ。ビジョンを具体化するには、次の3つの要素を考えて、研ぎ澄ましていく。
- 解像度:人の生活の細部まで、未来の景色の解像度を上げる
- 広がり:様々な関係者にとって自分ごと化してもらえるものにする
- 時間軸:10年後より先の未来を考えてみる
②バリュー:私たちがこだわりたいことは何か?
バリューは組織を束ねる規範として機能する。様々な価値観を持つ人が組織の中で、優先させる価値観を明確にすることが必要になる。バリューは、未来の理想の価値観というよりは、現在の自分たちがありのままに心から信じていて、これからも信じ続けていきたい価値観を引き出して言語化する方が機能する。
価値観とは、人や組織が積み重ねてきた成功体験によって次第に形成されていく。そのため、自分たちの価値観にアクセスするには次の問いに答える。
- 組織における「最高の体験」は何か?
- その際にどのように行動をしたか?
- その行動を選んだのは、どんなことを大事にしているからか?
③ミッション/パーパス:私たちは何のために存在しているのか?
変化し続けるが、変わらない芯を持つ。そんな矛盾を解決するために必要なのが、自分たちが社会に対して変わらず果たし続ける役割の意思表明としての、ミッションやパーパスだ。ミッションの効用は、経営者自身も社員も、意思決定の優先順位で迷った時に立ち戻る原点になるということ。
ミッションをつくるには、自分たちの会社の事業が様々なステークホルダーに対して果たしてきた価値貢献を洗い出し、自分たちが最も大事だと思うコアの価値貢献を整理するプロセスが必要になる。そのためには次の3つが重要な要素となる。
- どんな世界に価値があると信じているか?
- どの領域で活動するか?
- どんな役割を果たすか?