ブランディングとは
クリエイティブ・ディレクションという仕事は、自分自身のやりたい事を形にする事ではない。主体はあくまでもクライアントだ。仕事を受けて最初に必ずやらなければならないのは、クライアントへの問診を重ねること。抱えている問題を明らかにすると同時に、まだ表に出していない熱い思いや本心を引き出していく。それがクリエイティブ・ディレクションの第一段階になる。
そして、クライアントの思いを具現化し、世の中にきちんと伝え、社会の中でより良いポジションを獲得するための方法を考え、実践していくのが、ブランディングという作業になる。「本質的価値」×「戦略的イメージコントロール」=「ブランディング」という作業である。
本質的価値を見つけ出す
「本質的価値」を他所から持ってくる事は絶対にできない。クライアントが持っている長所や個性の中から探し当てなければならないが、これが簡単な事ではない。なぜなら、クライアント自身が「本質的価値」に気付いていない場合が多いからだ。今治タオルも、まさにそういうケースだった。
今治タオルのブランディングのキーファクターは「安心・安全・高品質」だった。今治では、元々クオリティの高いタオル製品を生産していたが、海外からの廉価な輸入品の台頭で競争を強いられた四国タオル工業組合の人たちは、その本質的価値を見失ってしまっていた。「高い=売れない=価値がない」という認識が根付いてしまっていた。ある程度高くてもクオリティを重視する消費者はいる。そのフィールドで、今治タオルの価値を再構築できるはずだと考えた。
わかりやすさを優先させる
「本質的価値」をどうやって伝えるかが、「戦略的イメージコントロール」という作業になる。伝える初期段階では「わかりやすさ」を優先させる。どんなプロジェクトでも本質的価値をわかりやすく伝える事がディレクションの核心になっている。言いたい事が山ほどある中で、何がその企業や商品にとって本質的な価値なのかという事を徹底的に検証し、つかみとる。つかんだ本質を研ぎ澄まし、シンプルで明快なコンセプトとしてまとめる。
そして、それを最も世の中にわかりやすい形でプレゼンテーションしていくというのが、ブランド戦略の基本的な流れになる。しかし、そういったノウハウが、今治タオルプロジェクトでは、体制や予算の制約もあり、全く使えなかった。
象徴的なものをつくる
ハードルの高さは、タオルという製品そのものに対する日本人の持つイメージにもあった。日常生活に欠かせないものであっても、自分でお金を出して、質の良いものを選んで買う「商品」という感覚には乏しい。
わかりやすく伝えるための戦略として、効果的だったのは「白いタオル」をキープロダクトに設定した事だった。今治タオルの本質的価値「安心・安全・高品質」を際立たせるために、他の特徴はむしろ表に出さない方がいいと考えた。ブランディングに必要なのは「これが今治タオルです」という事を一目でわかってもらうための象徴的な商品であり、それを「白いタオル」に設定した。
各社がつくった「最高の白いタオル」が目の前に並べられた時は圧巻で、これが今治タオルを象徴するシーンになった。そして、今治タオルは、伊勢丹本店に売場つくられ、メディアに取り上げられた反響を呼んでいった。