魅力的な提案が受け入れられない4つの理由
人々に新しいアイデアを受け入れてもらうにはどうすればいいか。イノベーターなど変化を生み出すことを仕事にしている多くの人は、人々を説得して新しいアイデアを受け入れてもらうには、アイデアそのものの魅力を高めるのが一番の方法だと思い込んでいる。そして、アイデアに機能やメリットを付加したり、メッセージの訴求力を高めたりする方策をとる。
こうしたアイデアに推進力を与えることを目的とした戦略を「燃料」と呼ぶ。イノベーターたちは魅力を高めるための「燃料」ばかりに注意を向け、方程式のもう半分である「抵抗」をなおざりにしている。「抵抗」とは、変化に対抗する心理的な力だ。変化を起こすにはこの「抵抗」を克服することが不可欠である。
私たちが世に送り出そうとするアイデアや取り組みは、次の4つの「抵抗」に押し返される。抵抗は、その威力と影響力にもかかわらず、発見しにくいものであるため見過ごされやすい。
①惰性
自分の知っていることには限りがあるのに、それに固執しようとする強い欲求。人は往々にして新しいアイデアや可能性を受け入れることを嫌がる。メリットが明白で議論の余地がなかったとしても、この傾向は変わらない。人間の心は不確実なものや変化より、馴染みのあるものや安定を好むからだ。
②労力
変化を起こすために必要なエネルギー。私たちは、最も少ない労力で最大の見返りが得られる道を探し、それを選ぶようにプログラムされている。その影響を意識していないことが多いが、「努力を最小限に抑えたい」という本能は、人の意思決定に最も強く作用する心理的な力かもしれない。
③感情
起こそうとしている変化そのものが引き起こす思いがけない否定的感情。感情面の抵抗が明らかになるのは、相手の変化の瞬間が訪れるまでの一連の出来事や心の動き、気持ち、変わろうと決断した後に起こる出来事や湧き上がる気持ちを隅から隅まで観察した時である場合が多い。これは従来の手法で市場調査をしてもほとんど明らかにならないため、複数のユーザーを観察することが求められる。
④心理的反発
変化させられまいとする衝動。人は変化を強要されることを嫌う。変化を迫られていると感じると、人は無意識のうちに変化に反発する。人は、自分のいる環境に対する自由を基本的欲求として持っている。自由があれば、有益で望ましい選択肢を選び、有害な選択肢や結果を避けることができる。自由に対する欲求は心の非常に深いところまで染み込んでいるため、人は選択の自由がある状況をよしとする。
心理的反発が最も強くなるのは、次の3つの条件に該当する場合である。
- アイデアが基本的な信念を脅かす場合
- 変わることへのプレッシャーを感じる場合
- オーディエンスがのけ者にされていた場合
抵抗を克服する方法
①惰性を克服する
惰性を克服するには、よく知らないものをよく知っているものに変えてやればいい。その方法は「アイデアに慣らす」と「相対化する」に分けられ、以下のものがある。
- 何度も繰り返す
- 小さく始める
- 伝達者をオーディエンスに似せる
- 提案を典型的なものに似せる
- 喩えを使う
- 極端な選択肢を追加する
- 劣った選択肢に光を当てる
②労力を克服する
労力には「苦労」と「茫漠感」という2つの側面がある。茫漠感とは、どうすれば良いのかわからないというものだ。労力の非常に重要な側面が茫漠感だと言えるのは、イノベーターにとっては簡単そうでも他の人からすると茫漠としているアイデアが多いからだ。茫漠感は「ロードマップの作成」と呼ばれるプロセスで制し、苦労は「行動の簡素化」と呼ばれるプロセスで変貌させる。
- ロードマップを作成する
実践の手順を1つ1つ示す。行動するタイミングを明確に区切って、行動を忘れずに実行してもらう。行動を誘発するきっかけを設定する。 - 行動を簡素化する
「ノー」と言いにくくする。やってもらいたいことをデフォルトにする。
③感情を克服する
感情面の抵抗を見つけるために最初に打つべき手は、「抵抗」探しに着手することだ。
- 「なぜ」にフォーカスする
- 行動観察者になる
- 外部の人を引き入れる(顧客を従業員として雇う)
④心理的反発を克服する
心理的反発を克服するための秘訣は、変化を無理強いするのをやめることだ。相手を説得しようとするのではなく、相手が自分自身を説得できるよう手助けした方がいい。自己説得は、変わることについての議論や洞察が内面から生まれた時に始まる。自己説得を導く方法には次の2つがある。
- 「イエス」を引き出す質問をする
- コ・デザイン(利害関係者たちとともに作る)