業務マトリックスからAI投資する分野を見極める
AI経営の本質は、企業内のすべてのバリューチェーンにおいてデータが持つ価値を最大化した上で、次のことを可能にする。
- ルーティンワークを極限まで自動化して効率化する
- 未来をシュミレーションして最適な一手を打つ
- 人間は付加価値の創造とイレギュラーの対応にフォーカスする
企業内のバリューチェーンは、大きく4つの項目に分けられ、それぞれの項目は3つの複雑性に伴うデータ量の多寡で構成される。
①オペレーション
その企業が生産している製品やサービスがどれぐらい複雑なのか、保有する資産がどれぐらい複雑なのか、関連するエコシステムがどれぐらい複雑なのかを判断する。複雑性が高ければ見る必要のあるデータの量は増え、シンプルであればデータの量は減る。
- プロダクトの複雑性
- アセットの複雑性
- エコシステムの複雑性
②管理
新規に雇った従業員や正社員だけでなく契約社員やアルバイト・パートがいれば複雑になる。管理しなければならないシステムがどれぐらいあるかによって、あるいはその構造によっても複雑性は変化する。ファイナンスの手法や構造が多岐にわたればわたるほど複雑になる。
- 従業員の複雑性
- システムの複雑性
- ファイナンスの複雑性
③リスク
多様なオペレーションを行うことにより、それぞれのリスクは大きくなる。市場も多種多様なマーケットに関わらなければならなくなったため、リスクは増大する。コンプライアンスにおいても、企業が順守すべきものが複雑性を増している。
- オペレーションリスク
- 市場リスク
- コンプライアンスリスク
④カスタマー
満足させなければならないカスタマーがどれぐらい多様になっているかによって複雑性が増してくる。対応しなければならないチャネルの幅が広いほど、複雑性は増す。顧客中心主義が行き届くと同時にカスタマーとのやりとりも複雑性が増している。
- カスタマーの複雑性
- チャネルの複雑性
- インタラクションの複雑性
これらの項目のデータ量に応じて、どの分野にAI投資をするかを判断する。
BXT思考
B:ビジネス(組織の運営方法を変えるために必要なビジネスの変化)
X:エクスペリエンス(有用で魅力的な体験を創出するために必要なヒューマン・テクノロジー・インターフェース)
T:テクノロジー(企業のシステムで新しいソリューションを可能にするために必要なテクノロジー)
BXT思考は、ビジネス中心主義、顧客体験中心主義、テクノロジー中心主義を一体化してアプローチする手法である。ビジネスを再定義することで新しいイノベーションを起こすマインドセットであり、フレームワークである。
BXT思考は、AI経営を考えていく上でのベースになる。これまでのように、人が行うプロセスにテクノロジーを当てはめるという発想だけではなく、テクノロジーができることに合わせて人の将来を見据えていくという、逆の発想も含めて思考する必要がある。
BXT思考のスタート地点は常にエクスペリエンスである。実際の流れとしてまず考えるのは、次のポイントである。
- 課題を理解する
- 課題を再定義する
誰も欲しがっていないものをつくることがないように、まず「誰が」「何を」課題だと思っているのか、人間中心で考える必要がある。それがエクスペリエンスの最初の一手になる。それをしっかり考えてから、その課題をどうすれば解決できるのか、ビジネスインパクトはどこにあるのかについて併せて考え、最終的なソリューションに落とし込んでいく。
その時に、PwCが行うワークショップで必ず用いるのが「リフレーミング」という手法である。対象の課題に影響を受けている人に注目し、その人たちの困りごとや要望の背景にある理由を深く掘り下げていくことによって潜在的な問題を導出する。表面的な課題ではなく、「なぜそれが課題なのか」について深く掘り下げることが重要なプロセスになる。
①誰にどのような影響を及ぼすか深く掘り下げる
狭い視点で影響を受けている人を考えるのではなく、それぞれのバリューチェーンに関わるすべての人を考えてみるのがコツである。そして、表面的に困っている事柄からさらに一歩踏み込み、何が本当の原因になっているのかを深く考察することで、真のペインポイントが浮かび上がってくる。
②本質的な問題を明らかにする
実際に使いやすいやり方は次の4種類である。
- ズームアウトする
- 分解する
- 正反対のシナリオを考えてみる
- 当たり前を疑う
③本質的な問題に対し、理想的な体験を考える
根本的な課題に対して、そのようなソリューションを設定すればいいかについては「How」の部分になる。Howについては、ポイントさえ正確にわかっていれば、テクニカルな思考で考えれば実現できる。
しかし、Howを考える前に解かなければならない課題について、様々なステークホルダーの体験という形から探っていかなければならない。それがBXT思考のアプローチのポイントになる。