組織になじませる力

発刊
2022年3月11日
ページ数
237ページ
読了目安
279分
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推薦者

採用した人材を定着させるための施策
人手不足により、採用が困難になっている現代において、採用後に人材を定着することも重要な課題である。採用した後にいかに組織に適応させて、人材を定着させれば良いのか。
採用後に人が離職する原因を解説しながら、新卒採用、中途採用のそれぞれで、人材を組織になじませる施策(オンボーディング施策)を紹介しています。

組織になじませる力とは

会社が「組織になじませる力」を有していなければ、人が出ていくだけである。入ってきても定着しないので、また出ていかれるだけの人材流出企業になってしまう。

組織になじませる力とは「オンボーディング」と表現される。新卒採用者や中途採用者など、会社という乗り物に新しく加わった個人を同じ乗組員としてなじませ、一人前にしていくプロセスを指す。オンボーディングは「新入社員の適応を促進する組織やエージェントによって従事される、公式、非公式な訓練、プログラム、政策」と定義される。

 

オンボーディングには、次の3つの機能がある。

①情報を与えるインフォーム行動

新入社員に情報や道具を提供すること。この行動は次の3つに分けられる。

  1. コミュニケーション:人事部員や同僚、上司との双方向コミュニケーションなど
  2. リソースの提供:会社の部門についての詳細な説明をしているウェブサイトなどの情報
  3. トレーニング:スキルや知識の習得を促進するための計画

 

②迎え入れるウェルカム行動

新入社員を歓迎したり、新入社員と同僚が顔合わせできる機会を提供するなどのプログラムや制度。

 

③導くガイド行動

新入社員のトランジションをサポートする個人的な指南役(メンター等)を提供すること。

 

調査では、オンボーディングに力を入れている企業の方が、企業規模に関係なく、中途採用者の定着率とパフォーマンスの双方においてスコアが高いことが示されている。

 

新卒採用者の組織適応課題

入社した個人が最初に直面する適応課題は、リアリティ・ショックと呼ばれ、それをうまく克服できなければ、組織になじむことができず、不適応を起こし、結果的に離職してしまう。これは、個人が仕事に就く際の期待・現実感のギャップに由来する。新卒採用者をうまく組織になじませるためのオンボーディング施策は、このリアリティ・ショックへの対策とも言える。

 

リアリティ・ショックには「期待の程度」と「組織現実」がポジティブかネガティブかという単一の組み合わせだけでなく、「期待の内容」と「組織現実の内容」の組み合わせによって異なる、3つの構造が存在する。

 

①既存型リアリティ・ショック

楽観的な、あるいは非現実的な期待に対して、それに反する現実が待っていた場合に直面するリアリティ・ショック。

 

②肩透かし

自分自身を鍛えて欲しいために、厳しさを期待していたのに、実際は自己成長を促すような現実ではなかった時に生じるリアリティ・ショック。

 

③専門職型リアリティ・ショック

厳しい現実が待っているという覚悟を超える「予想以上にしんどい」現実に直面した時のリアリティ・ショック。

 

リアリティ・ショックは、多くの新卒採用者が直面する。しかし、このリアリティ・ショックが原因で、離職してしまう新卒採用者もいれば、離職せずに会社に留まる新卒採用者もいる。このような違いが生じる要因は次の3つである。

 

①解決における自己完結性

在職者のリアリティ・ショックは、個人の主体的な働きかけによって解決できる可能性が高い一方、離職者のリアリティ・ショックでは、個人で解決できる可能性が低い。

 

②正当化可能性

在職者のリアリティ・ショックは、個人にとって正当化が可能な内容であるのに対し、離職者のリアリティ・ショックでは、個人が正当化できない性質のものであり、会社からも納得のいく説明がされていない。

 

③将来にとっての意味

在職者のリアリティ・ショックは、それが個人の将来にとって何らかの意味があるものと捉えられるのに対し、離職者のリアリティ・ショックは、将来の成長に結びつくものではないと捉えられる。

 

リアリティ・ショックへの対策

新卒採用者がリアリティ・ショックに遭遇しないための予防施策は、入社前に実施しなければならない。具体的には次の2つの施策がある。

 

①正確な情報提供(内定前)

リアリティ・ショックの要因は、入社の前段階における期待の形成と関連するため、入社前から抑制施策に取り組む必要がある。内定前の段階で、就職希望者に対して、正確な情報を提供するのは効果的である。

 

②トランジション・スロープをかける(内定後)

新卒採用者が直面するリアリティ・ショックは、学生から社会人への移行の際に生じる。役割の変化が起こる移行期には、移行前と移行後の間に、断絶や障壁をを伴う。これが深すぎたり、高すぎると早期離職につながる。そのため、移行前と移行後の間にスロープをかけることが求められる。

トランジション・スロープの設置期間は、10月1日の内定式から、実際に入社する4月1日までの6ヶ月になる。次の施策を講じると良い。

  1. 内定者インターンシップの実施
  2. 入社前研修

 

入社前の予防施策が採られても、日本の新卒一括採用というシステムは、リアリティ・ショックの温床となっている。そのため、入社後の対処施策も重要である。

  1. 相談窓口などのケアリング施策
  2. 適応支援施策(公式メンター制度など)
  3. 教育制度(研修など)
  4. 再動機付け施策(環境デザインやジョブデザイン)