地図理論:「抽象」を道具に「現実」を捉える
地図や抽象概念、モデルは、様々な複雑な物事を単純化し、物事を理解し予想を立てるのに役に立つ。しかし、これによって重要な情報が抽象化されて失われる可能性がある。地図が実際の地形と一致していなくても気づけなくなってしまう。さらに、地図では必ずしもカバーしきれない地形があることを忘れてしまう。
地図やモデルをできるだけ正確に活用するには、次の3つのポイントに注意する必要がある。
- 現実は究極のアップデートである
- 地図は製作者の意図を反映する
- 地図は現実に影響を与えることもできる
地図を絶対に正しいと思い込み、新しい地形を発見したり、既存の地図の情報をアップデートしたりする妨げにならないように注意すること。
能力の輪:自分の「能力領域」を理解する
自分が持っている知識を正確に把握している人間は、他人よりも優位に立てる分野を理解している。自分にどんな知識が足りないかきちんと理解しているなら、自分の弱点であり努力すべき分野も知っているはずだ。自分の「能力の輪」を理解すれば、判断力が鋭くなり、より良い結果を出せるようになる。
ある分野を自分にとっての「能力の輪」と考えるためには、その分野に少なくとも数年は関わり、失敗もいつくか経験していることが必要だ。「能力の輪」を築いて維持するには、3つの重要なことを実践する必要がある。好奇心を持って学び、常に自分の「能力の輪」を把握し、現実からフィードバックを得ることだ。
第一原理思考:「根本を考える」
「第一原理思考」は、複雑な状況を基本的な要素に分解し、創造的な解決法を導き出すアプローチの1つだ。この思考法は、物事の根底にあるアイデアや事実を先入観や憶測から切り離すことで複雑な問題を解き明かすのに役立ち、物事の本質を浮かび上がらせる。物事の基本原理を特定するのに役に立つ手法は次の2つ。
①ソクラテス式問答法
- 考えを整理し、「発想のもと」になっていることが何かを問いかける
- 考えが「正しいか」検証する
- 「エビデンス」を見つける
- 「違う視点」から検討する
- 「結果」や「影響」について考えてみる
- 元々の疑問を「再度」検討する
②5Why分析
「なぜ」という問いを重ねて反証可能な事実を導き出したなら、「第一原理」にたどり着いている。
思考実験:頭の中で「仮説」を試す
思考実験とは、「物事の本質を究明するために用いることのできる想像力の装置」と定義できる。思考実験が有効なのは、失敗から学び、将来の失敗を避けられるからだ。不可能なことに挑戦し、自分の行動から生じる可能性のある結果を事前に検討し、過去の出来事を再検証してより良い判断を下すために利用できる。
思考実験は単なる空想とは異なり、一般的な実験と同じような厳密さを必要とする。科学実験の手法と同様に、思考実験は通常次のような手順で行う。
- 「質問」を立てる
- 「背景情報」を調べる
- 「仮説」を立てる
- 実験(思考)による「検証」
- 結果を分析し、「結論」を出す
- 仮説と比較し、必要に応じて「調整」する(新たな質問など)
二次的思考:先の「先」を読む
ほとんどの人間は、自分が行うことの直接の結果なら予測できる。行動に直結したこのような「一次思考」はシンプルだが、それだけでは平凡な結果しか得られない。「二次的思考」とは、ずっと先のことを考え、かつ物事を全体的な視点から考えることだ。そのためには、自分の行動とその直後の結果だけでなく、「その行動がもたらす長期的な影響」も考慮する必要がある。
ある行為の結果からその第二段階として発生する影響は、手遅れになるまで考慮されないことが非常に多い。何かの問題に直面したら、自分が持っている情報をもとに可能な限り先の結果まで検討すること。異なる様々な可能性を検討することこそが、「考える」ということだ。
確率思考:「正確」に見通す
「確率思考」とは、数学や論理学のツールを用いて特定の結果が実現する可能性を推定することで、私たちの判断の精度を高める最良のツールの1つだ。未来は決して固定したものではなく、自分に影響を与えるかもしれない出来事がどのくらい起こりそうか理解できれば、よりよく備えられる。
確率には次の3つの重要な側面があり、それらを頭に入れることで正しい推定ができるようになり、成功する可能性が広がる。
①ベイズ的推論
私たちはこの世界について、限られてはいるが有用な情報を持っており、また常に新しい情報に接しているから、何か新しいことについて考える時には事前に知っている知識をできるだけ考慮に入れるべきである。
②ファット・テール分析
正規分布では、テールの細い先端部分はほとんど発生することのない極端な値を含んでいるため、ある現象が発生する確率は平均値に近い部分に集中する傾向にある。一方、ファット・テール分布では極端な出来事が発生する確率はずっと大きくなる。正しいやり方で太いテールの領域にあるリスクに対処することが重要になる。
③非対称性
推定した確率値そのものが有効である確率を考える。確率の推定値は「楽観的な」場合の方が、「楽観的でない」場合よりも間違っていることがはるかに多い。
反転思考:「逆」から考える
ある状況に対して通常思いつく視点の「反対側」からアプローチする。ある方向から考える能力とその逆から考える能力を組み合わせれば、現実を多面的に見ることができる。これには2つのやり方がある。
- 証明しようとしていることが正しいかどうか仮定し、「それを確かめるために何が必要か」を考える
- ゴールを直接目指すのではなく、「何を避けるべきか」を深く考えた上で、どのような選択肢が残るのか確認する
オッカムのかみそり:とにかく「シンプル」に考える
シンプルな説明は複雑な説明よりも真実である可能性が高い。これは、論理学と問題解決に関する古典的命題「オッカムのかみそり」の中心にある思想だ。これは「鉄則」ではなく、一定の「傾向」を示すものであり。必要に応じて参考にすべき思考の枠組みである。
ハンロンのかみそり:「思考過剰」を避ける
「ハンロンのかみそり」とは、相手の行為が単なる愚かさで説明できるのであれば、必要以上に悪意を想定しようとしてはいけないという考え方だ。複雑な世界では、この考え方を取り入れることで、相手を必要以上に疑ったり、固定観念に縛られたりするのを避けられる。