マネジャーを苦しめる「5つの壁」
今、世界は不確実性を増し、正解が誰もわからない時代に突入している。上司も正解を持ち合わせているわけではない。そして、コロナ禍でリモートワークが常態化し、物理的に顔を合わせることの少なくなった部下をどうマネジメントするのか。上司にかかるプレッシャーは、かつてなく高まっている。こうした上司側の悩みは、次のように整理できる。
- 安心して話せないから、上司と部下の間に信頼関係がない
- 課された目標の意味がわかっていないから、主体性のないメンバーばかり
- フィードバックがうまくできていないから、問題が起こっても自分で解決できない
- 経験学習のサイクルが回っていないから、学びが活かされず、何度も同じ失敗をする
- 部下の動機の源泉(内的キャリア)がわかっていないから、期待をかけても成長しない
これら5つの壁を上司が越えられていないことが、マネジメントの停滞を招き、組織の症状となって現れている。この問題を解消するための方法が、1on1であり、そこで使うと効果的な「対話の技術」である。
1on1が効く5つのポイント
1on1を導入して自由にものを言い合えるようになると、次の効用が得られる。
①信頼を構築する:心理的安全性アップで貢献を高める
心理的安全性とは、言いにくいことや言いたいことを、お互いに言い合える状態のこと。マネジャーの対応が常に否定的な職場だったりすると、メンバーは話す気がなくなり、やる気も下がる。逆にお互い信頼し、尊重しあう関係性が築けていると、いい成果につながっていく。
但し、1on1によって職場に心理的安全性が確保され、仕事に向き合う環境が整うだけで、すべてが解決するわけではない。心理的安全性は前提条件のようなもので、この前提を踏まえてチームとして成果を出すには、マネジャー自身のリーダーシップも問われる。この時、マネジャーが意識しておくといいことは2つある。
- マネジャー自身が鎧を脱いで本音を語っていい
- 安心して意見を言って1on1を活用して欲しいというメッセージを、積極的にマネジャーが打ち出す
②視線を合わせる:目標共有で主体性を刺激する
目標を共有するためにも1on1は有効である。組織には必ず業績目標があるが、目標に対してやる気を高め、腹落ちさせるために1on1は効果を発揮する。マネジャーは、目標の意味づけや目標の先にある目的を明確にするための問いかけが重要になる。
大事なのは、その目標を達成した時に「自分たちはどうなっているのか?」ということをマネジャーとメンバーの間でしっかりと共有できていること。そのためにメンバーの「WILL(やりたいこと)」を問い、「CAN(できること)」を承認し、目標である「MUST(やるべきこと)」との接点について対話する場として、1on1は有効である。
③問題解決を行う:前向きなフィードバックで業務推進
1on1は基本的にはマネジメントを進めるためのものなので、相手の中にある答えを引き出すコーチングだけでは機能しない。新入社員など、相手に仕事の知識がない場合はティーチングで教えなければ動けないし、本当に「こう動け」という必要がある時には、指示命令を出すべきである。よって、課題の緊急度や重要度と、本人の習熟度や成熟度などを踏まえながら、ティーチング、コーチング、フィードバックの3つを使い分ける、もしくは組み合わせて使うことが重要である。
フィードバックにより、マネジャーはメンバーの課題解決をサポートして、チームの目標達成の障害となっているものを取り除き、業務を推進していかなければならない。
④学びを深める:リフレクションで経験学習を促進する
経験学習とは「経験から内省し、持論化して次の状況に対応することで人は成長する」という考え方である。この考え方はメンバーの成長を促進するという1on1の目的に馴染みやすく、特に「内省=リフレクション」を促進するために1on1は有効である。
経験学習というのは、うまくいかなかった仕事を振り返るのもいいが、うまくいった仕事についてどうしてうまくいったかを振り返る方がさらに効果がある。
⑤成長を促す:キャリア支援で中長期的な育成
メンバーの先々のキャリアについては、日常の仕事時間の中ではなかなか話をすることができないので、1on1だからこそできる対話かもしれない。そこでは「私はこういう役職に就きたいです」といった表面的なことではなく、もっと手前のこと、つまり仕事に対する価値観や、大事にしていること、仕事を通じて世の中にどんな貢献をしていきたいかなど、モチベーションに影響するような部分についての対話が求められる。
メンバーのWILL、CAN、MUSTを言葉にしてもらい、共有することは、メンバー1人1人の内的キャリアを把握し、成長へと導いていくためにも極めて重要である。