偶然にも法則がある
「偶然の出来事は予測不可能でも、ある種の規則性がもっと高いレベルに存在するかもしれない」と考えるためには知性の著しい飛躍を要する。一回一回のコイン投げで表と裏のどちらが出るかは全くわからないが、1000回投げた内の500回ほどは表になるという認識は大きな概念の前進だ。
到底起こりそうもない出来事にも法則がある。「ありえなさの原理」とは偶然に関する法則一式の呼び名で、それらは総体として、思わぬ出来事は起こるものであるということ、そしてそれはなぜかなのかを教えてくれる。
ありえなさの原理
ありえなさの原理は一本の数式ではなく、より糸の集まりであり、より合わさってなわれて互いに強めあって事象や出来事や結果を結ぶロープとなる。主たるより糸は次の通りだ。
①不可避の法則
可能なすべての結果の一覧をまとめられるなら、その内のどれかは必ず起こる。可能な結果それぞれの起こる確率が極めて小さくても、その内のどれかは必ず起こる。但し、一覧に挙がったどれかが必ず起こる事はわかるが、どれが起こるのかはわからない。この法則は極めてありそうにない物事を確実にする。例:宝くじ
②超大数の法則
機会の数が十分にたくさんあれば、どれほど突飛な物事も起こっておかしくなくなる。何個かのサイコロを投げ続けていれば、いつか全部6という結果が出る。機会の数が十分に多くなれば、ほとんど避けがたい事になる。だが、私達は時として、機会が本当はたくさんあるのに少なそうに見える事がある。そうなると、事象の確率をずいぶんと低く見積もってしまう。例:ホールインワン
③選択の法則
事象が起こった後に選べば、確率は好きなだけ高くできる。これは「選択バイアス」という形で現れる。例えば、これから何が起こるかを見極めようとする代わりに、振り返って実際に起こった事を確かめる事で、私達は当たる確率を不確実から確実に変えられる。この行為は普通の「予測」に対して「事後予測」と呼ばれている。例:予言
④確率てこの法則
状況のわずかな変化が確率に大きな影響を及ぼしうる。この法則は確率をゆがめ、その度合いは途方もなく大きくなりうる。モデルに対するわずかな変更や、私達が思うところのわずかな不正確さが、確率の違いという形で途方もなく大きな影響をもたらしうる。分布の形がわずかに変わる事で、極めて低かった確率が、いつもの列車が遅れる確率、鉛筆を落とす確率、にわか雨に降られる確率、といった普通の出来事のレベルにまで変わりうる。例:金融危機
⑤近いは同じの法則
十分に似ている事象は同一と見なされる。小数点以下無限大の精度で全く同じ測定値は2つとないが、現実問題として測定値は大抵十分に近く、私たちは同じと見なす。近いは同じの法則が、その効果を発揮して一致とされる確率を大幅に高める余地はたくさんある。
このどれかだけでも一見極めて起こりそうにない何か(例えば、ロトの複数回当選、金融危機、予知夢など)を起こすには十分だ。だが、これらが相まってこそ真の力が発揮される。ありえなさの原理のこうした法則を考え合わせれば、「尋常ではない」出来事にもほとんど驚かなくなる。