SaaSの立ち上げの流れ
SaaSの立ち上げは、事前/深掘り調査とプロトタイプ、開発、ゴー・トゥ・マーケット戦略、リリースと大きく4つのフェーズに分解ができる。フェーズごとに関係者が多くなり、リリースを迎える頃には一大プロジェクトと化す。ただ関係者が多くなるだけではなく、多種多様なファンクションのメンバーが集まり、リリースに向けて協働していくことになる。そのため、クロスファンクションチームでOKRを立て、フェーズに合わせた運用が不可欠である。
プロダクトマネージャーは、そのチームが追うべきOKRを策定し、同じ目標を共有した上で、各ファンクションのメンバーの自主性を担保し、チームのパフォーマンスを最大化する触媒的な役割を持つ。そのため、プロダクト開発に関わる広いスキルセットが求められる。その中でもBtoBを前提とするSaaSでは事前/深掘り調査を行えば把握できることが多く、高い調査スキルが求められ、調査結果を踏まえて開発を進めるマーケットインのアプローチが主流である。
SaaSを立ち上げるための調査
SaaSに限らず、BtoBプロダクトを提供するに当たって、まずはターゲットとなる潜在ユーザーが、どんな業務をどのように進めていて、どこに課題感があるのか、これらを丁寧に確認していく必要がある。
調査方法には、自分の手元でできるデスクリサーチと潜在ユーザーや専門家へのインタビュー、アンケートなどにより、詳細な示唆を得るための調査に大別される。デスクリサーチには大きく以下の5つの手法/媒体が挙げられる。
- 過去の社内資料や社内インタビュー
- インターネット上に公開された関連記事や資料
- 同じ業務を対象とするプロダクトのHPやIR資料
- 関連書籍
- 民間、公的機関が実施した既存の調査結果
デスクリサーチを中心に調査を進めていくと、業界や業務理解が進み、立ち上げるプロダクトの方向性が考え始められるようになる。ただ実際に、プロトタイピングを進めるには、デスクリサーチを中心とした二次情報では足りず、潜在ユーザーへのインタビューを通し、業務の進め方を体感できるまで把握する必要がある。さらに、アンケートを行うことで定量的に市場を把握することで、ターゲットとすべきユーザーセグメントを導出し、彼らに併せた機能をプロトタイプを通して試していく。
また、ユーザーに価値を感じてもらうために、どこまでプロダクトを作り込む必要があるのかを考える上で、競合プロダクトは参考になる。そのため、HPの確認はもちろん、可能であれば実際利用してみて、個々の機能を体感すべきだろう。
BtoC向けの有料プロダクトを想定すると、プロダクトを使ってくれているエンドユーザー自体が課金を行うバイヤーであることがほとんどである。これに対してBtoBではその様相が異なる。SaaS導入にあたって、バイヤー(導入の意思決定をする責任者)とエンドユーザー(SaaSが対象とする業務を担当している従業員)が別にいることが多く、どちらに向いたプロダクトなのかを見定めて、各種調査を進める必要がある。誰が導入に関する予算を持っており、意思決定できるのかをまずはしっかり押さえるべきである。その上でバイヤーがどこまでエンドユーザーを配慮すべき業務なのか把握すべきである。エンドユーザーに全く配慮せずにトップダウン的にエンドユーザーに利用を強いるケースから、導入前にエンドユーザーにも広く告知しテスト導入を実施したり、SaaSの提供企業による説明会を開いたりするなどの配慮を行うケースまである。
デスクリサーチだけでは、新たなSaaSなどのプロダクトを立ち上げていく上で、対象業務の内容や課題の理解が十分と言えることは少ない。情報の幅という観点では充足することもあるが、情報の深度という観点ではさらなる深掘り調査が必要になることが多い。その時の調査方法は大きく以下の3つに分類される。
- インタビュー
- 競合プロダクトの調査
- アンケート
業務内容のインタビューは、単にどんな業務を担当しており、どのように進めているのかをつぶさに聞いていくだけである。具体的には以下の5つを確認していくことに尽きる。
- 対象となる業務の流れはどうなっているのか
- 協働や役割分担している他部門や担当者はいるのか
- インタビュイーの担当領域はどこか
- なぜその業務をやっているのか
- どのようにその業務を進めているのか
原則として、この5点をひたすら深掘りを行うことで、大抵の業務は理解できる。5点目の業務の進め方に関しては、導入しているプロダクトの使い方を確認したり、管理しているデータを洗い出したりして、どのように管理しているのかデータレイヤーから業務内容をヒアリングしていくこともある。
インタビュー、競合調査を行うことで、対象とする業務理解および競合プロダクトのユーザーストーリーマッピングを把握することができる。これらを元に潜在ユーザーが抱える課題を踏まえ、競合プロダクトを意識しながら、プロダクトの企画検討を進めることができるようになる。
さらに、ある程度プロダクトの方針が見えた段階で、アンケートを行うことで、対象とする市場の定量化に加え、プロダクトに関する仮説を定量的に検証することができる。