自分のことばをつくるとは
何かを表現しようとする時、最も重要なことは「自分のことばをつくる」ことである。言い換えれば、あなたでなければできないことを表現するということである。
自分のことばをつくるためには、次の2つがポイントになる。
- 自分の中にあることば(考えていること)をどのようにして自覚するか
- そのことばをどのようにして他者に伝えることば(表現)にするか
自分自身が考えていることを相手に伝えるためには、自分自身のことばの中身が不可欠である。その中身とは、自分にしか語れないことであり、自分の全存在を賭けて相手に問いかけるものである。これを「自分のテーマ」と呼ぶ。
自分のことばで語るために大切なのは、とにかく「ことば」にすること、そしてそのための「考えること」である。表現すること、そのための「考えること」の循環プロセスが大切である。
自分のテーマを表現するということ
オリジナリティ → 興味・関心 → 問題関心 → 問題意識 → 自分のテーマ(表現活動)
①オリジナリティ
自分でなければできないこととは、自身のオリジナリティである。オリジナリティとは、他からの借り物ではない、自分の考えとその表現という意味である。
オリジナリティは、自分固有のものだから、当然、自分の中にあると誰しも考えがちである。しかし、このオリジナリティは、「私」の中にはじめから明確に存在するのであるとは言い難い。自分の「言いたいこと」「考えていること」は、相手とのやり取りの中で次第に姿を現すものだと考えることができるからである。
人がものをつくり上げると言うことは、元々ゼロから始まるわけではなく、他者の仕事を「借りて」「盗んで」「返す」ということであるとすれば、そこに本来的なオリジナリティが存在するのではなく、他者とのやりとりのプロセスにおいて、様々な刺激を受けつつ、それを自分のものにして、最終的には、自分のことばとして表現することになる。
②興味・関心
このオリジナリティが、自分自身の固有のテーマをつくる。このテーマは、自分で決めなければならない。テーマとは、自分にとって最も重要なこと、大切だと思われる事柄である。それが決まるのは、自分の好きなこと、自らの興味・関心による。なぜなら、人は基本的に、自分の好きなこと、興味・関心に即して行動しているからである。
③問題関心
なぜ自分の興味・関心について考えることが、自分のテーマにつながるのか。それは、人が生きていく上での「好き」を見つけることである。この場合の「好き」というのは、自分が生きたいように生きたいという自由の感覚である。この漠然とした自由の感覚こそ、人間が生きていく上で最も大切なものである。
日常生活で、必ずしも不満とか疑問とかいう形ではないにしても、何かを思い、感じる。そうしたことが、考えるきっかけにつながり、考え始めることが、何かを表現するきっかけにつながる。こうした、それぞれの興味・関心が、具体的なその人の生活や仕事の中で、1つにまとまることがある。これが問題関心である。多様で拡散した興味・関心が、目の前のいくつかの対象に向かって集中する過程で、問題関心は生まれる。
毎日の生活や仕事の中で、誰でも確実に、何らかの問題関心を持って生きていることに気づくこと、これが自分のテーマを発見する第一歩かもしれない。
④問題意識
それぞれの問題関心が、次の問題意識につながっていく。問題意識となると、その問題関心から、やや意識的になるため、他の人とは違う、自分の意識ということになる。そうすると、なぜ自分はそのことに意識を向けるのか、そのことは自分にとってどんな意味があるのか、ということをおのずと考えるようになる。この時、「なぜ」が生まれる。これが問題意識である。
⑤自分のテーマ
問題意識を持つようになると自分の興味・関心から始まって、では、どうしてその興味・関心を持ったのかと自分の意識を明確にする「なぜ」がはじまる。そうすると、私はこんなことが言いたい、こんなことが言えるのではないか、といった漠然とした結論の予想のようなものが見えてくる。これが問題意識の自覚化である。
問題は、それだけでは表現は完成しない。重要なことは、自分自身のテーマと、自らの経験とを一体化させて、最終的な自分の主張へと結び付けられるかどうかを考えることである。それさえできれば、的確な表現活動として実を結ぶはずである。
表現活動という一連の作業は、モヤモヤした自分の心の中に自ら降りていくこと、そしてつかみとった「テーマ」について、ことばを模索しながら、「言いたいこと」を1つの主張として改めて見出し、共有することばの論理によって筋道を立てて他者に伝えようとすることである。