新時代の依存症
人間は、ある行動が1回限りなのか、それとも2回、もしくは100回繰り返すべきことなのか、そもそも一度も手を出さない方がいいのか、反射的な費用便益計算を積み重ねて決めている。メリットがコストを上回るなら、同じ行為を繰り返さずにいるのは難しい。特にそれが神経学的にジャストなツボを押さえているとなれば、せずにいることの方が不可能だ。
何らかの悪癖を常習的に行う行為を「行動嗜癖」という。昔から存在していたが、ここ数十年で昔よりずっと広く、抵抗しづらくなり、しかもマイナーではなく極めてメジャーな現象になった。ドラマを一気に何話分も視聴せずにいられないビンジ・ウォッチングや、頻繁にスマートフォンを覗かずにいられないのは、新しい依存症と言える。テクノロジー自体は道徳的に善でも悪でもない。問題は、そのテクノロジーを生み出す企業が、大衆に積極的に消費させることを意図的に狙って開発し、運営していることだ。アプリや各種プラットフォームは、充実したソーシャル体験を追い求めたくなるように、タバコと同じく依存症になるようにデザインされる。
依存症ビジネスが人を操る6つのテクニック
行動嗜癖には6つの要素がある。
①目標
ちょっと手を伸ばせば届きそうな魅力的な目標があること。現代では、求めもしない目標が向こうからやってくる。ソーシャルメディアに登録すれば、フォロワーや「いいね!」の数を集めたくなる。
②フィードバック
抵抗しづらく、また予測できないランダムな頻度で、報われる感覚があること。人間は隔日制のないフィードバックほど欲しくてたまらない気持ちになる。
③進歩の実感
段階的に進歩・向上していく感覚があること。特にハマり始めた時期のビギナーズラックほど危険なものはない。ビギナーズラックには人を依存させる力がある。成功の喜びを教え、次にその喜びを奪い取ってしまうからだ。
④難易度のエスカレート
徐々に難易度を増していくタスクがあること。苦労の感覚は、依存体験を形成する重要なカギとなりやすい。課題を片付けているという感覚や、自分がこれを成し遂げているんだという気持ちは、大きなモチベーションになる。
⑤クリフハンガー
解消したいが解消されていない緊張感があること。人間は完了した体験よりも、完了していない体験の方に、強く心を奪われる。
⑥社会的相互作用
強い社会的な結びつきがあること。人間には他人と比較したいという永遠の欲求がある。社会的な評価にことさらにこだわる人もいるが、そうでなくても誰でも多少は、他人にどう思われているか気にせずにいられない。
現代の行動嗜癖は多種多様だが、こうした要素を必ず1つは備えている。例えばインスタグラムに依存症がある理由は、「いいね!」で支持される写真とそうでない写真がランダムに発生するからだ。
新しい依存症に立ち向かうための3つの解決策
依存症をもたらすテクノロジーのすべてをシャットアウトするわけにはいかないが、だからといって対策がないわけではない。依存症のある体験を限られた範囲で許容しながら、健全な行動を促すよい習慣を根付かせていけばいい。
①予防はできるだけ早期に行う
ついてしまった悪癖を正すよりも、最初から依存症を発症しないように防ぐ方がはるかに簡単であることを鑑みれば、対策は大人よりも子供において始めなくてはならない。
②行動アーキテクチャで立ち直る
まずは、自分の精神的な生活に過剰なインパクトを与えている身近な存在は、それが何であれ、物理的に遠ざけること。そして、依存症的な行動を克服するために必要なのは、何か別のものと入れ替えることだ。
③ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションは、うまく活用すれば、人間により幸せで、より健康で、より賢明な行動を促すこともできる。