あえて苦しい体験を部下に与える
リーダーが新入社員や部下を教育する時、そこには、ある種の強制があって当たり前である。なぜなら、企業や社会の「〜らしくなってほしい」という期待に応えていくのが人間の義務であり、使命であるからだ。自主的というものに期待していたら、自分勝手な人間が増えるだけである。
指導とは相手のペースに合わせることばかりではない。相手のレベルをこちらの期待レベルに引き上げることが大事である。よき人材に育てたいと思うなら、辛いこと、慣れないことでもあえて体験させる。そういう信念を持って臨むこと。
例えば、部下が上司やお客様にタメ口をきいても、「叱責して嫌われたくない」からと、注意をしない上司がいる。叱責する上司は嫌われ、叱責しない上司が好かれるという構図になっている職場さえ見かける。
だが、叱責のできないリーダーは実力がなく、自分に甘く、部下を育てようという愛情がない。部下から都合のいいおっさん、おばさんと見られているだけだ。本気の厳しさこそ、本気の愛情である。
リーダーは、部下の部下の良くない行為を見たら、その時、その場で、注意・叱責せよ。注意も叱責もせず、ただ愛想笑いをしているリーダーは、部下に好まれるかもしれないが、好かれることイコール信頼ではない。部下は叱られてこそ賢くなり、注意されてこそ成長していく。
部下の指導に必要な6つの覚悟
リーダーは「自分はどんな場合も決して逃げない」と肝をすえ、覚悟を決めることだ。部下指導にはそれなりの覚悟と勇気が必要である。最低限、次の6つの覚悟が必要だ。
①自分とは正反対の性格の部下でも毛嫌いせず、能力やアイデアを持っていれば仕事仲間として評価してやる覚悟。
②部下からの批判を、リーダーとしての自己改造のためのありがたい問題提起および情報だと肯定的に受け入れる覚悟。
③部下の知識や実力が自分より上だと判断した場合でも、それを認め、出る杭を伸ばし、褒め称えて能力を伸ばしてやる覚悟。
④部下が反発・抵抗しても妥協せず、とことん議論し、最終的には「私の方針に従え」と要求事項を受け入れさせ、納得させていく覚悟。
⑤組織内の不正や不道徳行為を見たら、「それはよくない」と、いの一番に意見具申をし、それによって不利な立場に置かれても、正義を貫いていく覚悟。
⑥一貫した自分流のビジョンや哲学を持ち、部下の前に立ちはだかって主張し続ける覚悟。
部下指導における典型的な勘違い
部下指導の研修に参加するリーダーたちがよく勘違いしている典型は次の通りである。
①部下は平等に叱れ
平等と公平は違う。実績を上げている部下と、実績とは無縁の怠惰な部下を平等に扱ったら、不公平になる。実績や日頃の努力に応じて、ほどほどに叱るか厳しく叱るかを分けるのが「公平に叱る」ということである。誉める場合も同じだ。優秀なリーダーは「平等」意識など持たない。部下を「公平」に扱うことが信頼される基本だと知っているからだ。
②仕事のできない部下をきつく叱るな
上司は、部下を公平に扱うという観点から、成果を出せる者と出せない者との接し方に差をつけて当たり前だ。成果を出せない者には期限を切って教育や訓練を施し、強引にレベルアップを図ることだ。
③部下の個性を尊重せよ
個性をうんぬんする前に、基本の型を身につけさせることが大切だ。会社で「個性的だ」と言われるのは、仕事の原理原則をマスターし、礼儀作法や敬語の使い方などもできており、そのことが周囲の人にいい影響を与え、会社の信用や業績アップに貢献している人だ。基本の型をマスターしているからこそ、型破りの個性を出せるのである。
④部下の身になって考えよ
リーダーにはリーダーの立場があり、部下と同じ立場に降りる必要はない。どんな話し方をすれば退屈せずに聞いてもらえるかと相手の身になって考え、工夫を凝らすことは必要だが、過剰にフレンドリーであろうと無理に口調を合わせることはない。
⑤指示・命令も話し合ってから
上司の指示・命令には、納得しなくとも従うのが社員の義務である。質問や議論はしていい。しかし、最終的には、例え苦手な内容、嫌いな業務でも、「はい」と引き受けなければならない。それが組織のルールである。自分の事情より、組織や上司の命令を優先させることをきちんと教え、毅然とした態度で指示・命令を出すこと。