世界で最安値水準の物価
世界のディズニーランドの大人1日券の円換算価格は以下の通り。
- 日本:8,200円
- フロリダ:14,500円
- 香港:8,500円
- 上海:10,000円
- パリ:10,800円
日本のディズニーランドは世界で最も安い水準だ。だが、日本人の所得や生活水準からすると、世界で最も安いディズニーランド料金ですら割高にうつる。
価格を巡る世界との常識のねじれは、あらゆるモノやサービスに広がっている。「安いニッポンの象徴」とも言える100円ショップのダイソーは2020年12月時点で海外に2248店を出店している。海外では、日本の「100円均一」のような単一価格ではなく、商品によって3段階ほどのマルチプライスにしており、ほとんどの国や地域で100円で売られている場所はない。20年前ならいくら高品質でも「新興国で200円前後」なんて売れなかったが、今は現地の購買力が上がったため成り立っているという。
くら寿司では、約100種類のメニューがあり、その80%強が今も100円で提供されている。100円で提供を実現できている裏には、徹底したコストカットがある。人件費を抑えるために、多くの回転寿司チェーンが、シャリを握るすしロボットや、客に注文を任せるタッチパネルを取り入れている。
くら寿司は、2020年11月時点でアメリカ28店、台湾31店を出店している。価格はアメリカは2.6ドル(約270〜310円)、台湾は38台湾ドル(約140円)で、いずれも日本よりも高い。人件費が高く、日本より高くせざるを得ない。
なぜ、これほど日本の価格が安くなったのか。日本は長いデフレによって、企業が価格転嫁するメカニズムが破壊された。製品の値上げができないと企業が儲からず、企業が儲からないと賃金が上がらず、賃金が上がらないと消費が増えず、結果的に物価が上がらないという悪循環が続いている。
デフレが続いた結果、他国では成り立たないような「300円牛丼」や「1000円カット」といった格安のファストフードや理髪店が登場した。これらはデフレが生み出したビジネスモデルであり、価格をあげられないために、人手不足が続いても賃金が上がらない。
この20年間、日本の物価はほとんど変わっておらず、平均インフレ率はゼロ。その一方で、アメリカの物価は20年間、ほぼ2%ずつ上昇してきた。2020年の物価水準は、2000年の5割増しだという。そのため日本人が20年ぶりにアメリカに行くと、「物価が5割高くなっている」と感じ、逆にアメリカ人が20年ぶりに日本にやってくると、昔よりも相当に安く感じる。これが、インバウンドの増加につながった。
日本では企業が少しでも値上げをすると売れなくなるほど、消費者はインフレに抵抗がある。その原因は、消費者の所得が上がっていないことだ。アメリカでは、物価が2%ずつ上がるが、給料は3%ずつ上がっている。
日本は賃金水準が低い
日本の賃金はこの30年間全く成長していない。そのため、賃金がどんどん上がるアメリカなどに比べて、日本は相対的にどんどん安くなってしまった。日本の賃金水準はOECDの中でも相当下位になっている。G7では日本の平均賃金は最下位だ。
日本だけが低賃金なのは、次の点が挙げられる。
- 労働生産性が停滞している
- 多様な賃金交渉のメカニズムがない
日本の労働生産性の向上にブレーキをかけているのは、サービス産業と長い残業時間だとされる。
安いニッポンの未来
賃金が安くても、物価が安ければ生活できると思う人もいる。必ずしも「安いこと」が「貧しい」につながるわけではない。しかし、日本の安さはいずれ大きな問題として日本に返ってくることになると警鐘を鳴らされている。
- 海外の高級品が買えなくなったり、海外旅行にも頻繁に行けなくなる
- 英語ができて能力の高い日本人は、海外企業に流出する
- 海外大学の授業料を払えないため、留学が減り、人材が育たなくなる
- 国際的に活躍できる人材が少数になっていく
長期のデフレ均衡という「ぬるま湯」は、日本にいる分にはある意味で心地よかったが、世界は待ってくれない。購買力が衰えてグローバルな価格についていけない日本人は海外旅行も難しくなる、という将来の断面が少しずつ見え始めている。