細胞の自己浄化機能
オートファジーとは、細胞内で損傷・老化して有害な影響をもたらす細胞小器官や粒子、細胞内細菌を取り除き、再利用する方法のことだ。オートファジーには、免疫系を強化し、がんや心臓病、慢性炎症、変形性関節症、うつ病や認知症などの神経変性疾患の発症リスクを大幅に低下させる効果がある。このプロセスは、細胞内の「mTOR」と呼ばれるタンパク質の働きが抑制されることで誘発される。mTORはほぼすべての細胞が持つスイッチだ。
mTORの働きが抑制されると「細胞の自己浄化モード」であるオートファジーが起動し、脂肪を燃焼させるだけでなく、細胞内に生じた有害物質や増殖しようとしているがん細胞を除去する。逆に、mTORが活性化すると「細胞の成長モード」に入る。このモードでは、タンパク質の生産、エネルギーの蓄積、細胞の形成などが促進される。この「成長モード」の状態が極端に長くなると、病気にかかりやすくなる。
人類は体内でこの「成長」(mTORが活性化)と「修復(オートファジー)」の生物学的なスイッチを絶え間なく回したり戻したりできるように進化してきた。
現代人は、このスイッチを常に「成長」の方向にひねり、「修復」の方向にはほとんど回さないような生活を送っている。このスイッチが「成長」にある時、「細胞のごみ収集車」の働きをする「修復機能」は動きを止め、細胞内の廃棄物を取り除く能力が低下する。
オートファジーを無理なく誘導する
オートファジーは身体に健全なストレスを与えることで促される。そのための主な方法は次の2つである。
・食事
高脂肪、高繊維、低糖質で、タンパク質を最小限に抑えた食事をする。精製糖質と砂糖は避けて、健康的な脂質と食物繊維が豊富な野菜を多くとる。
そして、間欠的断食は、オートファジーの強力な引き金になる。午後7時以降に食べない。これだけで12時間の断食を楽に始められる。次に朝食を抜く。これで16時間に延ばせる。間欠的断食は、血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンを活性化する。血糖値のバランスを保つために、グルカゴンはインスリンとは逆の働きをする。食事をするとインスリン値が上がってグルカゴン値が下がり、食事をとらないとインスリン値が下がってグルカゴン値が上がる。グルカゴン値が上がると、オートファジーが始まる。そのため、間欠的断食を安全に実践して一時的に身体に栄養を与えないようにすることは、細胞の健全性を高める最高の方法と言える。
・運動
運動は肝臓や膵臓、筋肉、脂肪組織など、代謝に関連する臓器でオートファジーを誘導する。運動とは筋肉を整え、つくる行為と多くの人は考えているが、筋肉は運動によって壊された身体組織が修復されることで成長し、強靭になる。
この「スイッチ」でもオンとオフのバランスが大切だ。運動は身体に良いものだが、その効果には限りがある。例えば、激しい運動を休むことなく長時間続けていると、運動によるプラス効果は薄れていき、マイナスの影響が大きくなる。
同じことがオートファジーにも言える。身体が組織をつくり、体重を保ち、免疫機能を維持するためには、この体内の洗浄装置を一定期間、休ませる必要がある。
1年の内、8ヶ月間はオートファジーのスイッチをオンにし、残りの4ヶ月間は抑えるのが理想的だ。この比率を守れば、どの月にどちらを実践してもいい。
体内の「抗加齢物質」を活性化させる
オートファジーを最適化する安全かつ効果的な最善策の1つは、最近、人間の細胞で発見されたAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)と呼ばれる天然の抗加齢酵素を活性化させることだ。AMPKが活性化すると、オートファジーによって細胞内の不要物を除去するよう細胞に信号が送られる。この天然の「若返り薬」であるAMPKを活性化させるのに役立つ方法として、次の3つが挙げられる。
①運動:特に高強度のインターバルトレーニング
②食事:粘り気のある食物繊維が豊富な果物や野菜、豆類、ポリフェノールを多く含む緑茶などの茶
ウコンに含まれている成分であるクルクミンをとる
③カロリー制限:間欠的断食やタンパク質制限と組み合わせる