物事がうまくいかない時は、それを試練と捉えるとよい
自分の思い通りにならなかった時に、苛立ったり、憤ったりするのは多くの人にとって自然な反応だ。だから怒る。しかし、他にも対応の仕方がある。これを「ストイック・テスト戦略」と呼ぶ。逆境に見舞われた時は、自分の回復力や問題解決能力を想像上のストア哲学の神々に試されている、つまりテストされているのだと考える。
ストア哲学は宗教とは違う。死後の世界ではなく、この世で過ごす時間について論じている。とはいえ、キリスト教やイスラム教など多くの宗教に通じるものもある。「ストア哲学の神々」というのは、単にそうした神々がいることを想像して、多くの人が「逆境」と捉えることを「ゲーム」に変えているにすぎない。そうすれば、苛立ちも、憤りも、落胆も感じることなく、逆境に対処できる。
「ストイック・テスト戦略」は古代のストア哲学者によって考えだされた。これは今日の心理学者たちが再発見し、「フレーミング効果」と名付けた現象を評価することが基本となっている。フレーミング効果は、状況をいかに捉えるかが、その状況に対して抱く気持ちに大きな影響を与えることをいう。
ストア哲学者は、体験する状況のフレーム(枠組み)をかなり柔軟に捉えられることに気づいた。つまり、逆境を人間性に対するテストだと考えれば、状況に対して抱く気持ちが大きく変わる。とりわけ大きな不幸に直面した時にも平静でいられるようになるので、人生の質を劇的に改善することができる。
より悪い状態を定期的に想像する
古代のストア哲学者たちは、より満ち足りた人生を送るためにアンカリングを使った。例えば、定期的に、人生が今よりも辛いものになる場合を想像するようにした。最悪の事態を想像し、潜在意識に錨を沈めれば、錨があることによって、現状をどう捉えるかが変わる。現状を最高の状態と比較するのではなく、より悪い状況と比較すれば、現状もそれほど悪くないと思えるようになった。
これは現代では「ネガティブ・ビジュアリゼーション」と呼ばれる、ストア哲学のツールの内の最も優れた心理学的手法だ。とはいえ、状況が悪くなることを常に考える必要はない。人生や境遇が今よりも悪いものになりうることを、一瞬の間定期的に考えるだけでいい。
ネガティブ・ビジュアリゼーションの練習として、数秒間、目を閉じ、色彩感覚がなくなったと想像してみよう。世界はすべて灰色になってしまった。それから、目を開ける。周囲を全く違った気持ちで見ることができる。これまでの人生で当たり前のように見えてきた色の美しさが改めてわかるようになり、嬉しくなる。
物事の捉え方を変える
古代のストア哲学者が用いた、もう1つの心理的現象がフレーミング効果である。アンカリングが人生に感謝する助けとなる一方で、フレーミングは、逆境によって起こる心の乱れを防ぐ。出来事を賢く捉えれば、その経験を歓迎するようにさえなるかもしれない。潜在意識はマイナスの感情を呼び起こすような枠組みで出来事を意味付けようとするが、そうした傾向は枠組みを意識的に変えれば弱められることをストア哲学者は知っていた。
逆境は様々に解釈できる。その絵を納めるフレームは色々ある。
・相反する義務のフレーム
手に入れたいと思うものを与えてくれない人に対し、その人は責任でがんじがらめになっていて、自分の要求に応じれば、本来それをもらうべき人に与えられなくなる、と考える。
・能力不足のフレーム
相手の悪意ではなく、能力不足の結果として捉える。
・物語のフレーム
逆境に陥ったら、将来それをどう語ろうかと考える。どんなに不当な扱いを受けているかではなく、物語の結末を満足いくものにするために、何をすべきかに注意を向ける。
・喜劇のフレーム
逆境にユーモアで応じる。泣きたくなるような出来事を笑い飛ばせれば、苦難に対する力強い武器となる。
・ゲームのフレーム
逆境をゲームの一部と捉えれば、感情面の衝撃を大きく減らせる。
・ストイック・テストのフレーム
逆境に直面した時は、想像上のストア哲学の神々に試されていると考える。