37%ルール
市場に出ている中で最良のアパートに入居できる可能性の最大化を求める場合、良い物件を「見たのに逃してしまう」こと、そして「見る機会を持たない」こと、この2つのもったいない状況を最小限に抑えたい。では、判断基準がないのに、どうしたらアパートが本当に最良かわかるのか。アパートをたくさん見ない限り、判断基準は定められないのではないか。集めた情報が多ければ多いほど、最良の物件に出会った時にそれが最良だとわかる可能性が高くなるはずだ。最も、逃した後で気づく可能性もある。
最良の物件に入居できる可能性を最大にしたければ、部屋探しに充てる時間の37%(1ヶ月なら最初の11日間)までは結論を出さずにただ物件を見て回る。しかし37%以降は、それまでに見たどの物件よりも良い部屋に出会ったらすぐさま保証金を払って契約するのだ。これは数学で「最適停止」問題と呼ばれるタイプの問題だからだ。
部屋探し以外にも、日常生活の中で最適停止問題が出現する場面はたくさんある。1つずつ順番に現れる選択肢を選び取るか見送るかというパターンは、形を変えながら暮らしの中でしょっちゅう生じている。駐車スペースに車を停めるまでに、同じ区画を何回ぐるぐる回るか。家や車を売る時に、もっと条件の良い書い手が現れるのを待つのはいつ切り上げるべきか。交際相手を選ぶ時も最適停止の考え方は答えを出す手だてとなる。
37%ルールは、最適停止のパズルとして有名な「秘書問題」から生まれた。秘書の求人に応募してきた人たちを面接しているとする。面接が目指すのは、応募者の中で最も優秀な人材が採用できる可能性を最大にすることだけである。秘書探しが失敗に終わるとすれば、それは切り上げるのが早すぎたか遅すぎたかのどちらかである。早まってしまった場合、最も優秀な応募者には出会わないままだ。遅すぎた場合、もっと優秀な人材がいるのではないかと、いもしない応募者が現れるのを待ち続けることになる。戦略を最適なものにするには、両方の適切なバランスを見出すことが必要である。
最適解は「見てから跳べ」ルールというものだ。「見る」作業にかける時間をあらかじめ決めておき、その間はどんなに良さそうな応募者が現れても決して採用しない。所定の時間が過ぎたら「跳ぶ」段階に入る。これ以降は、「見る」段階で会った最高の応募者より優れた人材が現れたら、直ちに採用を決定する。
応募者が3人の場合、応募者が2人の時と同じく50%の確率で最良の応募者を採用できる。応募者数を増やして行くと、「見る」段階と「跳ぶ」段階の境界線を引くべき時点が応募者全体の37%で落ち着く。ここから37%ルールが出てくる。最初の37%までは誰も選ばずにただ見て、37%以降はそれまでに面接したどの応募者よりも優秀な人材が現れたところですかさず跳ぶべきなのだ。この戦略に従うと、最良の応募者を採用できる確率が最終的に37%となる。応募者が増えるにつれて、「見る」から「跳ぶ」に切り替えるタイミングと同じく、成功率も37%に近づいていく。
しかし、可能な限り最良の戦略を用いても失敗率が63%という厳然たる事実がある。秘書問題では最適な行動をとっても、半分以上は失敗に終わり、応募者の中で最良の人材を採用することはできないのだ。それでも悪いことばかりではない。応募者が増え続けても、秘書問題の確率は変わらない。最適な時点で「見る」のをやめれば、応募者が100万人でも成功率は37%となる。つまり、応募者が多ければ多いほど、最適アルゴリズムを知っていることの価値が高くなる。