製造業の課題
製造業はGDPの約2割を占める日本の基幹産業だ。しかし今、その製造業は厳しい状況に直面している。変化する国際情勢に加えて、人口減少や高齢化といった社会課題が表面化し、従来のようなQCDS(品質/コスト/納期/安全性)の成立が難しくなってきたからだ。かつては世界に誇った日本の品質であるが、人手不足や価格競争の激化といった要因に加え、従業員教育の不足、技術・技能伝承の断絶、スキルレベルの低下、技術ノウハウの喪失といった企業内部に潜む要因からも、品質の低下やトラブルのリスクが高まっている。
こうした環境から人材マネジメントへのニーズがかつてないほど高まっている。育成や配置を担当者任せでやみくもに行うのではなく、根拠に基づいて、戦略的に行うこと。その人材マネジメントで意思決定や具体的な施策を行う上での根拠になるのが、人の持つ「スキル」である。
採用や配置、育成を通して組織にスキルが蓄積されて行くと、そうしたスキルを製品開発やメンテナンスなども含む生産活動のあらゆる業務のマネジメントに活用できる。QCDSの要求にも応えられるようになり、品質や生産性、技術力などを向上させる。
スキルマネジメントとは
スキルマネジメントとは、「従業員のスキルデータを体系化・一元化・可視化することで、高度な専門性を持つ人材の育成や多様な組織・プロジェクトに対する最適人材の配置、ひいては人材ポートフォリオの充足を実現し、事業目標を達成する活動」である。体系化・一元化・可視化のサイクルの中で、スキルデータの価値が高まり、意思決定が進む仕組みを構築していく点がポイントである。
①体系化
スキルデータを階層的に整理し、広く連携することで、経営・現場の共通認識をつくる。これまで距離感があった経営や人事と現場及び異なる現場同士が、同一のスキルデータを基に、それぞれ理解しやすい階層・粒度に置き換えながら会話できるようになっていく。
体系化のプロセスでは、次の3つを組み合わせたスキル体系を構築し、スキルデータの基本構造を決定する。
- スキル分類:スキルを職種や組織などの単位で階層化した分類
- スキル項目:スキル分類と紐づき、各従業員に対して評価・認定を行う単位となる業務遂行能力を定義したもの
- レベル基準:スキルの上司評価ないしは自己評価の基準として、各スキルの習熟度合いを段階的に定義したもの
スキルデータの基本構造を決定する上では、特にスキルデータの用途に応じたスキル分類の粒度の設定が重要となる。
②一元化
スキルデータを矛盾なく蓄積し、高い鮮度を保つことで「目指すべきスキルな何なのか」といった社内の議論に明確な根拠を提供する。
まず、従業員名とスキル項目を軸としてデータを名寄せし、その掛け合わせで定義されるスキル保有状況は常に最新のものが表示されるようにする。同じ従業員のスキルデータが1ヶ所に集まっておらず、訓練や研修を実施した部署で記録がされていることも多々ある。職種や組織を問わず、同じ従業員の同じスキルであれば必ず分類や項目も同一のものとして管理し一元化する。
また、品質や改善、安全などに関わるスキルも共通性が高い傾向にある。部署や組織によって多少名称は異なるかもしれないが、内容として同じであれば部署をまたいだ共通のスキル項目として管理すると、その先ではスキルデータを組織横断で活用できるようになっていく。
一元化できればスキルマップをベースにして、目標レベルに応じた適正な教育訓練計画が立てられるようになる。実際に教育訓練を経て従業員にスキルが定着し向上すれば、それらをスキルマップに反映させる。
③可視化
スキルデータを集約・分析し、業務に対する示唆を出すことで、組織・個人の行動の一歩目を後押しする。現在の業務に対してどのようなスキルが足りていないのか、伸びているのかなど様々な軸で分析を行い、傾向を見ることができる。
人に紐づくスキルデータには様々な種類があるため、一気にすべてを表示すると見づらくなる。見づらいと、次につながるヒントや的確な示唆が得られない。データから適切な示唆を得るには、目的に応じた切り口で集計を行い、常に最新の状況が表示されるようにしておくことが有効である。
体系化し、一元化し、可視化したスキルデータを通して組織や分類別に傾向を分析することで、次なる具体的な行動に向けた示唆を得ることができる。
製造業の現場では、ISO9001の要求事項として、以前からスキルマップを作成し、いわゆる星取り管理を行ってきた。しかし、スキル粒度の細かさ、ニーズの複雑化、データの分散化という要因で、うまく運用できていない企業が多数派である。スキルマネジメントの領域にITの力を活用することで、過剰な工数をかけることなく、人材に関する様々な用途や複雑化したニーズに応えられる環境を整備することができる。