サービス業の課題
サービスの現場では、お客様に提供するサービスの品質の保持および向上といった難しいコントロールを、現場の店長が一手に引き受けている。例えば、営業時間前に行われる朝礼で、当日のメンバーと各自の役割や注意事項を確認する。新商品や新サービスがある場合はその提供の手順をおさらいする。さらに、前日の反省も行う。
サービスには4つの特徴がある。
- 無形性:形がない。形がないから蓄積できない。
- 同時性:目の前で作られ、その場で消費される。
- 変動性:人によって違いがある。
- 消滅性:その場で生まれ、何も残らない。
これらの特徴のため、サービス業においては、製造業のモノづくりにおける価値の生み出し方とは全く異なるアプローチが必要とされる。製造の現場では、みんなで出来事を共有したり、実験したり、改善したりすることが容易であるが、サービスの現場ではあらゆる面で一期一会、個人の能力任せになりがちになる。
暗黙知と形式知が集合知に発展するプロセス
知識創造理論は、SECIモデルで暗黙知と形式知が組織内で相互変換しながら集合知に発展していくプロセスを説明する。SECIモデルは、次の4つのフェーズからなる。
①共同化(Socialization)
個人が他者と直接対面することによって生じるお互いに対する共感や、環境との相互作用を通じて暗黙知を獲得する。お互いの暗黙知を共有する。
②表出化(Externalization)
個々人の暗黙知を、対話や思索、メタファーを活用して明らかにし、コンセプトや図像、仮説などを生成する。個人の暗黙知を集団レベルの形式知へと変換する。
③連結化(Combination)
集団レベルの形式知を複数組み合わせ、物語や理論に体系化する。集団レベルの形式知を組織レベルにまで高める。
④内面化(Internalization)
組織レベルの形式知を各自が実践し、新たな価値を生み出すと共に、その実践を通じて新たな暗黙知を獲得する。個人あるいは組織レベルで、新たな知を獲得する。形式知から暗黙知が生まれる。
サービス業では新たな知識創造が難しい
サービスでは、その特徴からSECIモデルが回りにくい。製造業の現場のように、各自の暗黙知を形式知に変換することが難しいのである。
ベテランが見本を示し、新人にその真似をさせて出来具合をチェックすればいいとは言え、教えるべきことが膨大にあると、相当の時間がかかる。短時間で終わらせる朝礼などではとても対応できず、閉店後の時間や、別途に時間を設けて実施するしかない。しかも、規模の小さなサービス業では、マニュアルがないことも多い。
このように、新たな知識創造がしにくい上、例えできたとしても、それが個々の営業店で閉じてしまい、なかなか会社全体の資産にまでならない。これが製造業と比較したサービス業の弱さである。
短尺動画でSECIモデルを回す
現場発の知が個人や個店にとどまり、会社全体に行き渡らないという問題を抱えるサービス業向けのツールが、短尺動画システムである。動画には、お客様への挨拶の仕方、料理の作り方、機器の操作法など、サービスの現場で発生するありとあらゆる仕事の見本が、短く編集された形で収められている。その仕組みは次の通り。
- 見本となる短尺動画を作成し、全店舗に配信する
- 閲覧、撮影、投稿を指示する
- 多様な人が練習動画にレビューできる
- 経営トップや関係者がその場で語りかけているような、臨場感あふれる講話を投稿できる
短尺動画を使うと、サービスでもSECIモデルを回すことができる。短尺動画は、サービス業の特徴である「無形性」「同時性」「変動性」「消滅性」を消す働きをしてくれる。
すなわち、ある見本動作を動画というパッケージに収録すると有形になる。繰り返し視聴できるので同時性も失われる。そもそも見本であるから、誰にでも受け入れられやすい最大公約数的な内容になっており、変動性はなくなる。そして、デジタル情報という形になっているから、クラウドにアップすれば消滅しない。
短尺動画システムを使って、現場の暗黙知を形式知に変換すれば、知識創造のSECIモデルが個店内はもちろん、チェーン全体でも回るようになる。