広告を出さずにお客さまに還元する
サイゼリヤは「イタリアンは高い」という従来のイメージをことごとく覆してきた。みんなが平等に食べられるようにしようというのが、創業者の思いだったからである。それもあって、サイゼリヤでは、1000円もあれば、色々なメニューを楽しむことができる。
サイゼリヤでは、マーケティング的なことはほとんどやっておらず、広告すら出していない。広告費を売上の5〜8%かけるのがチェーンストアの相場とされているが、サイゼリヤにはそれがない。サイゼリヤと言えば「安いレストランの代名詞」で、お店で出している価格そのものが広告になっているからである。広告を出さずに浮いた分のお金は、原価に組み込まれている。つまり、原価率を他社より5〜8%高くしても問題ないということである。広告に回すお金があったら、少しでもいい食材を使って、お客さまに還元するという考え方がある。
そのため、近くにサイゼリヤのお店があることが何よりも重要である。お店に来てもらわなければ、サイゼリヤのことを知ってもらう機会がないからである。最近は、近所にサイゼリヤが出店すると、何もしなくても、地元で話題にしてくれる流れができた。
先に値段が決まる
サイゼリヤは「日々の価値ある食事の提案と挑戦」を経営理念に掲げている。サイゼリヤが毎日でも利用できるレストランであるためには、「お財布にやさしい=リーズナブルな価格」というのは絶対に外せないポイントの1つである。そのため、商品の価格設定は、経営における極めて重要な意思決定となっている。
具体的には、創業オーナーである正垣会長が決めていた。その決め方は、値段が先にありき。商品をパッと見た時に「いくらなら出していいよ」と先に値段が決まる。その値段で出せるかどうかは後で考える。例えば、ミラノ風ドリアも最初は480円だったが、今では税込300円になっている。一番売れている商品だから、半分くらいまで値下げすれば、お客さまは喜んでくれるだろうという思いだけで値下げが決まった。
値段は一瞬で変わっても、それを実現するのは大変である。今までと同じやり方では原価は変わらないので、300円では出せない。それまではホワイトソースやミートソースを外部から調達していたのをすべて内製化する必要があった。工場をつくり、各店舗でやっていた作業の一部を工場に集約して、やっと原価が下がってくる。
工場をつくって生産性が上がると、出店戦略でも優位に立てる。各地のショッピングセンターに出店できるようになるからである。ショッピングセンターの最大のネックは、営業時間が短いことで、ディナータイムがほとんどない。サイゼリヤはディナータイムがなくても、利益が出る構造になっているため、ブルーオーシャンになっている。
レストラン版のユニクロ
食材の生産、調達、加工、物流、店舗での提供に至るまでを一気通貫で手がけるサイゼリヤは、バーティカル・マーチャンダイジングを標榜している。どこまで上流にさかのぼれるかを追求していくと、最後は食材そのものに手をつけるしかない。
サイゼリヤが目指しているのは、ユニクロで知られるSPAのレストランバージョンに近いかもしれない。サイゼリヤのことを、ただの安いイタリアンレストランだと思っている人は多いかもしれない。しかし、その裏側には、おいしさと安さを生み続ける確固たる仕組みがある。
「当たり前品質」を当たり前に提供する
サイゼリヤには元々、他社を見るとか、競合に勝とうという発想がない。他社がこうやっているから自分たちはこういうメニュー構成でやっていこう、といった比較すらほとんど行われず「おいしいのできたから、食べてみて」がすべての基本である。要するに、お客さまと自分たちしか視野に入っていない。
「おいしいから食べてみて」を続けるためには、容易なことで倒れないことが必要である。競争や競合に「勝つための戦略」はいらないが、「負けない戦略」は求められる。
相手に勝とうとする企業が目指すのは、魅力的な商品やサービスである。しかし、これはサービスを受けたお客さまにとって、次第に当たり前になっていく落とし穴がある。つまり、「なくても構わなかった」ことが「ないと不満になっていく」ようになる。
一方、本来「あって当たり前」で、「ない不満」を感じるような「当たり前品質」では、常にベースラインは一定である。そこさえ外さなければ、お客さまの評価は変わらない。当たり前品質を当たり前に提供すること。但し、どの店でも変わりなく提供する。国内1000店のサイゼリヤは、これを目指している。