生成AIは人間の仕事を奪うのか
AIが労働に与える影響を分析する研究において、生成AIが登場した2023年現在に広く共有されている主張は「高学歴で高いスキルを身につけている者が就くような賃金が高い仕事であるほど、AIによる自動化の影響を受ける可能性が高い」となっている。これはOpenAI社が発表した論文「GPTs are GPTs」の主張である。この論文では、影響を受けにくいとされる職業は、ほとんどが手足を動かす肉体労働を行うブルーカラーとされている。最終的な結論として、全職業の8割が何らかの影響を受け、さらにその中の2割ほどは労働の半分がAIに完全に置き換えられるレベルの影響を受けるだろうとしている。
AI以前に「定型作業」が機械化によって置き換えられることは、昔から共有されてきた認識である。2013年には、機械学習によって「非定型作業」の一部も機械で置き換えられるという期待が大きくなり、機械学習・ディープラーニングは、人間が作業をプログラミングするのではなく、データから自ら学習することにより、非定型作業の一部を可能とした。
しかし、これまでは、AIが将来的に次の能力を実現するのは難しいとされていた。
- 創造的知能:作曲や科学研究など、新しく価値あるアイデアを思いつく能力
- 社会的知能:交渉や説得のように、人間の感情を重視した対人コミュニケーションを行う能力
ところが、生成AIは、この考えをひっくり返してしまった。現在の生成AIも、2013年時点で登場していた機械学習・ディープラーニング技術の延長である。その技術で「できないだろう」と思っていたことがなぜできたのか。
人間の創造的な作業とされてきたものの大半は、実は「過去の経験の中から、価値のある新しい組み合わせを見つけること」であり、生成AIは膨大なデータ学習からこれを見つけられるようになった。また、社会的知能についても、人間のフィードバックを加えた強化学習などの調整を行えば、ある程度は実現可能であることがわかってきた。
生成AIなどの技術による労働への影響を考える場合、その技術が次のどちらなのかを分けて考える必要がある。
- 労働補完型:人間の労働を補助し、その労働自体を楽にしたり、生産性を上げたり、新しい仕事を生み出すきっかけになる
- 労働置換型:人間の労働を完全に置き換え、人間が介在する余地をなくす
人間が介在する余地が残るかどうかは、その仕事の元々の複雑さに依存する。元の仕事が一定以上複雑な場合、技術を投入しても、その技術自体をコントロールする人材や最終的な出力を責任を持って選択する人材は、依然として必要である。また、その技術が新しい仕事を生み出すかどうかは、正確に予測しようがない。現時点では、研究者の間でも意見が分かれており、生成AIは労働補完型の技術であり、既存の労働をより生産的に、より快適で質が高いものにするという説が多い印象が持たれる。
将来的に生成AIによって生じるであろう影響
将来的にはGoogle検索や現在のChatGPTがパワーアップする形で「AIに聞けば何でも解決する」世界がやってくると考えられる。現在のChatGPTなどの生成AIは、入力できる文字数の制限やハルシネーション(嘘の情報を出力すること)、学習に使用するデータを収集した期間などの技術的制約から、真の意味で何でも聞いて解決してくれるものではない。まして画像を入力してまともな回答をしてくれるAIはまだ少数であり、質問への回答に画像や動画、実際の操作画面などを返してくれる実用的なAIはまだ存在しない。一方、研究者の視点では、これらの技術的な問題については、おそらく中長期的には解決されると考えられる。
技術は人ができることを拡張するものである。個人が実現できる限界を拡張する範囲は非常に広範に及ぶ。プログラミングの初心者が、音楽、グラフィック、シナリオなどのすべてを担当して、ハイクオリティなゲームを作る、アニメや映画のような集団で製作される作品も、1人で作れるようになるかもしれない。長期的には、生成AIの助けを借りて作成されたコンテンツが当たり前となった、新しいプラットフォームのようなものが出てくる可能性もある。
生成AIの発展によって、デジタル化できるコンテンツについてはほとんどすべてにおいて、本物と見分けがつかないものを生成できてしまう世界が近づいている。これからは創作などもAIによって生成されたものを参考にすることが多くなってくるかもしれない。
「AIに聞けば何でも解決する」ということは、裏を返せばAI以外のものに一切頼らなくなるということである。AIによって解決される範囲が増えすぎると、人や組織との関係が希薄化する懸念はある。