ステークホルダーとつながる企業が持続的に繁栄する
顧客を最も満足させている企業は、優れた価値を生み出しているだけでなく、従業員、サプライヤー、コミュニティ、株主など、すべてのステークホルダーと密接な関係を築いている。今後、ステークホルダー関係管理のビジネスモデルこそ、優れた業績を持続させる最も有効な方法と見なされるようになるだろう。その理由を理解するには、先進諸国において、文化の根底で起こりつつある大きな変化をよく考える必要がある。
高齢化も変化の大きな要因の1つだ。アメリカ人成人の大半が45歳以上である今、社会にかつてないほど強い影響を与えるようになっているのは、中年層以上の人生観や価値観だ。「人生の意義」は、中年期以降の永遠の課題の1つだ。この意義探しが社会全体の時代精神に大きな影響を与え、それは企業文化にも及んでいる。キャリア形成期や子育て期の終わりが近い、あるいは終えた人が「残りの人生で何をすべきか」を考えるのはごく普通のことだ。そして、多くの企業リーダーもまた、同じように自問している。「株主への利益還元の義務を果たしつつ、社会の公器として役立つにはどうすればよいだろうか」と。
私たちは今、「超越の時代」という新たな時代の幕開けにいる。人々は所有物を増やすことよりも、人生の崇高な意義をますます探し求めるようになっている。この人生の意義探しは、市場や職場への期待を変えつつあるどころか、資本主義の本質の部分を変えつつある。
人道的企業、つまり「愛される企業」は、ステークホルダーと気持ちの上でつながることで、贔屓のスポーツチームに対するのとそう変わらない一種の愛着を感じてもらえるような経営を行っている。究極の価値クリエイターとして、感情的価値、精神的価値、社会的価値、文化的価値、知的価値、環境保護的価値、そしてもちろん経済的価値を生み出している。
これからの企業は、感情に強く訴えるものと経営効率とをうまく組み合わせる必要がある。心理的ロイヤルティは愛着から来る。この心理的ロイヤルティこそ、企業が存続と繁栄を長期間に持続させる上で最も重要である。
愛される企業の7つの特徴
愛される企業は、すべてのステークホルダー集団の関心事を戦略的に調整することで、ステークホルダーを喜ばせ、愛着を感じてもらい、ロイヤルティにつながるやり方で、すべての機能的ニーズにも、精神的ニーズにも応えている。愛される企業が他とは違う特徴は次の通り。
①業界の常識を疑ってかかっている
ルールブレイカー(業界の革命児)は業界のベストプラクティスには従わない。資源を無駄遣いせず、なるべく集中させ、パートナーシップを通じて付加資源を生み出し、相乗効果の高い組み合わせで自社の資源を補い、市場からより素早く資源を回収している。
②ステークホルダーの利害関係を調整し、価値を創造している
愛される企業はステークホルダーを、一定量の価値を奪い合う請求者としてではなく、価値の能動的な貢献者と捉えている。ステークホルダー集団を1つにまとめることで、その全体の価値を個々の総和よりはるかに高めている。価値創造へのステークホルダーの参加は、愛される企業の経営の基本である。
③従来のトレードオフの考え方を解消している
愛される企業が常に解消しているトレードオフの1つは、従業員の賃金と顧客への価値提供のトレードオフだ。従業員には突出した賃金を、顧客には他社に負けない価格と提供し、しかも大きな利益を上げている。従業員満足度と顧客ロイヤルティに関連性があるのは間違いない。
④長期的観点で事業を行っている
株主リターンを奪っている最大の要因は、短期で経営判断するように迫る金融アナリストからの執拗なプレッシャーに他ならない。愛される企業の長期的アプローチの方が、長期的にはより多くのリターンをもたらす。
⑤本業による自律的成長を目指している
愛される企業は、長期的観点で考えるため、事業拡大のペースが緩やかになりがちだが、結果的には思っていた以上に早く成長する可能性がある。
⑥仕事と遊びをうまく融合させている
中年期の特徴として、仕事と遊びをうまく融合させ、「合法的」なルール破りを時々やってみたくなる。こうしたルール破りは愛される企業ではよくある。
⑦従来型マーケティングモデルを当てにしていない
愛される企業には思いがけない恩恵がある。直接体験と多くの口コミに支えられているおかげで、マーケティング費用が少なくて済む。顧客も従業員もサプライヤーも満足していて、あちこちで話題にしてくれるから、認知度アップのための広告を打つ必要性があまりない。
愛される企業のリーダーは、今のビジネスの世界で最も効果的に競う方法が、オープンな事業活動、それに、すべてのステークホルダーからもたらされる価値を企業のコア資産基盤に加えることだと理解している。