漫画思考とは
漫画は、世界最強の情報伝達媒体である。漫画は文字という「左脳中心の情報」だけでなく、絵という「右脳情報」にもダイレクトに情報を与えられる特性がある。そして、1ページ内に同時に「多アングル・複数チャネル」を共存させるコマ割りやページ送りという形式によって、「多角的に」かつ「断続的に」情報を送り続けることができる。
こうした特性によって、漫画は多くの情報量を短時間で伝えることができる。これだけ情報密度が高く、右脳と左脳をフル活用させて、人の感情を動かし、効率良く学びに導くメディアは、漫画しかない。
「漫画を読むこと」は、ビジネス理論を学ぶのに最も手っ取り早い手段である。
- あらゆる漫画の場面において「もし自分がこのキャラクターだったら、どのように行動するだろうか」と考える
- あらゆる現実の場面において「もしあのキャラクターだったら、どのように行動するだろうか」とシュミレーションする
このような思考プロセスを通じて、今抱えている課題を、右脳と左脳をフル活用して解決していくこと、そして「実感を伴った学び」を得ることで成長のきっかけを掴むことを「漫画思考」と呼んでいる。漫画思考はあらゆることに役に立つ。
漫画を通して経営の本質を理解する
「メタ思考」や「戦略的思考」というように、ビジネスでは「多角的視点」が非常に大切になる。こうしたことを学ぶにも、漫画は最適なテキストになる。
①戦略思考とメタ認知
古今東西で最も著名である兵法書『孫子』の要諦は「相手と自分の置かれている状況を高次に俯瞰して、常識に捉われた余計な前提を排除し、使えるものは何でも使って、勝つための方策を編み出す」ということに尽きる。つまり勝負は「メタ認知」ができるかどうかにかかっている。
この「メタ認知」を学ぶのに最適な例が『ヒストリエ』である。
②遠交近攻ビジネス
ビジネスリーダーが多角的視点を得られる有用書には『キングダム』が挙げられる。「孫子の兵法」のケーススタディとして、様々な場面で参考になる内容が描かれているからである。
中国南北朝時代の兵法書『兵法三十六計』に「遠交近攻」という策がある。「遠くの国と組め」ということ。そうすれば、近くにはない特別な資源を得やすいことに加えて、近くの国を挟み撃ちできるからである。『キングダム』で、秦を含む「戦国七雄」の7カ国の内、最も遠くにある「斉」の王と会談するのはまさに「遠交近攻」策である。
戦略的思考の要諦は「メタ認知」にある。状況を俯瞰することで「目の前の敵と戦うだけではなく、高度な次元で勝っている状況を作る」、つまり「戦わずして勝つ」ことを目指す。こうした歴史と紐づいた戦略を、わかりやすく学べるのが漫画の強みである。
③シン・イノベーション理論
ビジネスに不可欠なイノベーションを起こすための「掛け合わせる」という思考法も漫画から学ぶことができる。「鬼滅の刃」ブームの翌年に、同等級のメガヒットとなった『東京卍リベンジャーズ』(東リベ)は、当時社会現象的な人気となった。東リべは30〜40代の漫画オタクには、既視感のある内容である。「ヤンキー漫画」を題材に、タイムスリップという素材を組み合わせた結果「大衆向けの娯楽作品に仕上がった」のが『東リべ』である。「イノベーション」を起こすには、特別、目新しいことは必須ではない。「組み合わせて、ズラす」ことが有効である。
④絶望的状況
絶望の最中で、それでも前に進むための起死回生策を教えてくれるのが『賭博黙示録カイジ』である。カイジは騙されて絶望の淵に沈んでは、その度に圧倒的な復活を遂げる。彼の切望の淵に沈んだ際、それでも人生を投げ出さず、かすかに見える光明を探し、必死に蜘蛛の糸を手繰り寄せようとする姿勢こそ、見習うべきである。
発達心理学をベースとし、ビジネス文脈でも有用な「成人発達理論」によれば、「自己否定することで、新たな視点が手に入り成長する。そのためには失敗して葛藤することが必要である」とされる。絶望こそ本当のチャンスと言える。絶望に襲われた際は新しい視点を得る、つまり一発逆転する大チャンスが到来したと超前向きに捉えることが有効である。
⑤認識のレンズ
『進撃の巨人』を読むと「信念とは人それぞれであり、事実では人は変えられない」ということ、そして、それが世の中から戦争がなくならない最大の理由であることを突きつけられる。
立場が違えば、それぞれの事情も異なり、絶対的に正しいことは世の中に存在しない。1つの事実をどのように捉えて、どう考えるかは人それぞれ異なる。自分の考える正論や事実だけでは、世の中も人も変えられないのである。
大事なのは、相手の固定観念、つまり世の中を見てる「認識のレンズ」を知ることである。私たちは、「相手には相手の認識の枠組みがある」と、常に俯瞰して考え続ける習慣を身につけるべきである。