新マーケティング原論 「売れる戦略」のシンプルな本質

発刊
2023年5月31日
ページ数
280ページ
読了目安
451分
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マーケティングとは何なのか
マーケティングの定義と意味を詳細に掘り下げるところから、そもそも「マーケティングとは何なのか」を突き詰めて考え、理解するための一冊。

テクニックやフレームワークを知ることで、何となくマーケティングを理解したつもりになるのではなく、根本的なマーケティングの考え方や意味をしっかりと学ぶことを主眼に、マーケティングの本質的なことが事細かに書かれています。
テクニックやノウハウを使う前提として、マーケティングの基礎的な考え方を身につけるのに役立ちます。

マーケティングの目的論

マーケティングとは「一定費用の下で、適切な買い手群にとってよりコストパフォーマンスの高い商品を生み出し、その存在を認知させ、その内容を理解させ、これを送り届けることによって、粗利を最大化する総合活動」である。

 

一定費用の下で粗利を最大化しようとする時、カギになるのが「コストパフォーマンス(CP)」である。人が何かを買う時の判断軸こそがCPである。「負担するコストに対してどれくらい大きなパフォーマンスを得られるか」という観点なしには、人が何かを買うという行為は説明できない。

このパフォーマンスとは、その商品が持つ「属性(Attribute/Property)」によって生み出される「効能の価値」の総量であり、買い手がその価値に対して支払ってもいい「金額」として表される。パフォーマンスは、3つの要素によって決定される。

  1. 機能性パフォーマンス
  2. 情緒性パフォーマンス
  3. 効能を享受するまでにかかる時間の短さ

 

価値の高い商品をつくろうとする時、私たちはよく1つの機能的な価値の軸(Attribute)だけにとらわれてしまいがちである。もう1つ陥りがちなのは、機能性パフォーマンスばかり追い求めてしまい、その商品が持っている情緒性パフォーマンスを軽視してしまう失敗である。

商品が同じであっても、買い手が異なればその商品のパフォーマンスも違ってくる。優れたマーケターは、買い手が求めている属性をうまく分解したり翻訳する。

 

マーケティングの戦場論

よりCPが高い商品を生み出すだけでは、マーケティングは成功しない。商品を売る時には、ライバルが存在するからである。この戦場において「最高」のポジションをとるには、2通りの方法がある。

  1. 戦場で最もCPが高い商品を生み出す
  2. 競合がいない場に商品を投げ込む

 

1人1人の頭の中には「それぞれの戦場」が存在する。そして、戦場が変われば、商品のCPも変わる。一見すると、同じ戦場にありそうな商品同士でも、実は別々の戦場に属していて、競合になり得ないケースもある。このすれ違いの背景には、次の3つの要因がある。

  1. 求めるパフォーマンスが質的に違う
  2. 求めるパフォーマンスが量的に違う
  3. コストがあまりにも違う

 

マーケティングの世界では、競争の存在しない世界「ブルーオーシャン」がしばしば称揚される。「場に1つだけの商品が存在する状況」が生まれるには、買い手のニーズのあり方に応じて、それぞれ3つのパターンがある。

  1. ニーズはあったが、それを満たす商品が存在しなかった時(顕在的)
  2. 潜在的だったニーズを、売り手が商品によって顕在化させた時(潜在的→顕在的)
  3. 何もないところから売り手が新しいニーズを生み出した時(無→顕在的)

 

全く新たな軸の属性を持った商品を投げ込むと、買い手が潜在的に持っていたニーズが顕在化されることがある。このような時、「ブルーオーシャン」と呼べれるような競争が起こらないまま、購買の意思決定がなされる。

 

このブルーオーシャンを切り拓くための切り札がバリューイノベーションである。これを生み出す戦略立案のための要諦は、次の3つに要約される。

  1. 減らす
    商品の価値が損なわれない範囲内で、自業界における一般的な価値属性(Property)の量を削る。それによってコストを削減して、商品のCPを高める
  2. 取り除く
    買い手にとって不必要な価値属性の軸(Attribute)そのものを切り捨てる
  3. 付け加える
    買い手が価値を感じる軸を新たに増やす

 

この中でも最も大事なのは3である。競争のない場を確実につくるためには、これまでにない新たな価値軸を付加しなければならない。

 

他方で、「新しい価値軸の付加」は必ずしも「新規買い手の獲得」につながるわけではない。既存の買い手の奪い合いにおいても、これまでにない価値属性を付け加える行為は有効である。「新規買い手の獲得」はあくまでも偶然の副産物でしかない。それゆえマーケターは、いきなり「新規買い手の獲得」を目指すのではなく、既存の買い手の中に隠されている潜在ニーズを拾い上げて、新しい価値軸を生み出すことに注力すべきである。

 

マーケティングの戦略論

買い手本人も気づいていない潜在ニーズを、赤の他人であるマーケターが発見することは可能なのか。買い手の潜在ニーズをつかむ方法は次の2つ。

 

①考える:自分の「内」にある情報を引き出す

自分自身の中にある「内なる買い手」に目を向けて、そこから潜在ニーズを汲み上げる。

 

②学ぶ:自分の「外」にある情報を取り入れる

別の空間・時間・カテゴリーにおいて顕在化されているニーズの知識を得て、それを目の前の買い手に応用する。

 

マーケティングはどこまでも「買い手としての自分を掘る作業」と切っても切れない関係にある。「自分だったらどういうものが欲しいか」という問いと不可分である。これには決まった「正解」はない。その意味で、マーケティングはどこまでも「アート」でもある。