「見えないもの」を見える化する
私たちは目で見て、手で触れられるものに本能的に気を取られやすく、目に見えない経験や感覚の重要性を見落としがちだ。しかし、新しいプロダクトをつくろうとする時には、つくっているモノは、ユーザーがそれを手にするずっと前に始まり、手に入れた後もずっと続く、目に見えない、見落とされがちな壮大なストーリーのごく一部に過ぎないことを頭に入れておく必要がある。
だから、試作品ができた時点で仕事が終わるわけではない。顧客の体験そのものを、できる限り忠実に試作品に落とし込むこと。見えないモノを見える化して、ストーリーの中であまり目立たないが本当に重要な要素を見落とさないようにすること。顧客がプロダクトをどのように発見し、購入を検討し、インストールし、使用し、手直しし、場合によっては返品するか、詳細に検討し、可視化しておく必要がある。
原子を使ってモノをつくることに夢中になり、デザイン、インターフェース、色、素材、質感にこだわり始めると、もっとシンプルで簡単なソリューションがあるのに目に入らなくなってしまう人は多い。何らかのUXを実現するのに絶対的に必要でないハードウェアは存在するべきではない。プロダクトだけがプロダクトではない。
顧客の体験を試作品に落とし込むためには、理論上の顧客が「誰か」のままではいけない。相手を知らなければならない。なぜ箱を手に取るのか。知りたいことは何か。一番重視するのは何か。抽象的概念を具体化していく。UXのあらゆる部分に心を砕けば、消費者に伝わる。
あらゆるプロダクトにはストーリーが必要である
なぜそれが存在する必要があるのか、顧客の抱える問題をどのように解決するのかを説明する筋書きは必要である。優れたプロダクトストーリーには次の3つの要素が揃っている。
- 理性と感情の両方に訴える
- 複雑な概念をシンプルに伝える
- プロダクトが解決しようとしている問題を明確にする。「なぜ」の部分にフォーカスする
「なぜ」こそが製品開発の一番重要な部分だ。いつもそこから始めるべきだ。なぜそのプロダクトが必要かという問いにしっかり答えられたら、次に「どのように」機能するかを考えればいい。プロダクトを初めて目にする人が、自分と同じ背景知識を持ち合わせているわけではないことを忘れないようにすること。顧客に「なぜ」を説明する前に、「何を」を押し付けることはできない。
ストーリーの受け取り方は一人ひとり違う。ストーリーテリングのツールとしてアナロジー(比喩)が非常に有効なのはこのためだ。これはスティーブ・ジョブズから学んだことだ。アナロジーは顧客に途方もない力を与える、といつも言っていた。優れたアナロジーを使うと、顧客は複雑な機能を一瞬にして理解し、それを周囲にも伝えることができる。「1000曲をポケットに」が強力だったのはこのためだ。
破壊と実行の正しいバランスを見つける
- 進化:何かを改善するための小さな漸進的変化
- 破壊:進化の系統樹が枝分かれするポイント。大抵、昔からある問題に対する新しいアプローチが登場する
- 実行:約束していたことを実際に、しかもきちんと行うこと
バージョン1(V1)プロダクトは進化ではなく破壊でなければならない。しかし破壊的というだけで成功が保証されるわけではない。実行の重要性を見過ごしてはならない。またアイデアを実行したとしても、それだけでは不十分かもしれない。マーケティング、流通経路、製造、ロジスティクス、ビジネスモデルなど、これまで考えてみたこともない領域でも破壊的変化を起こさなければならないかもしれない。
V1が成功した場合、バージョン2(V2)は通常、その進化形になる。データや顧客からの意見をもとにV1を改善し、当初の破壊的変化をさらに倍加させる。実行もレベルアップしなければならない。
重要なのは正しいバランスを見つけることだ。実行できないほど破壊的ではいけないが、誰も興味を持たないほど簡単に実行できてしまうものもいけない。どこで勝負するか、選ばなければならない。
最高のアイデアをどう見つけるか
最高のアイデアには、必ず次の3つの要素が揃っている。
- 「なぜ」への答えがある。プロダクトに「何を」させるか決める前に、なぜ顧客がそれを求めるかを理解しなければならない。
- 多くの人が日常生活の中で直面する課題を解決する。
- リサーチし、知識を得て、試してみた結果、どれだけ実現困難かわかっても、そのアイデアのことが頭から離れない。
アイデアの実行にコミットする前に、まずはリサーチし、試してみることにコミットすること。直感的に「これだ!」と思えて、他には何も目に入らなくなるほどの素晴らしいアイデアほど、コミットする前にじっくり時間をかけ、試作品をつくり、できるだけ情報を集めるべきだ。